当記事は『家守綺譚』の書評です。
庭の樹木から季節の移ろいを感じる。自然の中でゆっくり過ごす。
今回はそんな体験ができる作品をご紹介します。
今から100年ほど前の、古き良き日本を感じられる作品です。
あなたにとって良き1冊となりますように。
『家守綺譚』とは?
『家守綺譚』は2004年に新潮社より出版されると、叙情的な描写が話題となり、同年の本屋大賞第3位に入賞した。
続編に『冬虫夏草』番外編に『村田エフェンディ滞土録』がある。
『家守綺譚』あらすじ

庭・池・電燈付二階屋。汽車駅・銭湯近接。四季折々、草・花・鳥・獣・仔竜・小鬼・河童・人魚・竹精・桜鬼・聖母・亡友等々々出没数多……本書は、百年まえ、天地自然の「気」たちと、文明の進歩とやらに今ひとつ棹さしかねてる新米精神労働者の「私」=綿貫征四郎と、庭つき池つき電燈つき二階屋との、のびやかな交歓の記録である。
『家守綺譚』梨木香歩著 新潮文庫出版 (2006/9/28)より引用
学生時代に湖で行方不明になった親友・高堂の家に住むことになった主人公。
当の本人である高堂は、家の掛け軸からたびたび現れます。
そう、この家はサルスベリが好意を寄せてきたり、時に河童が流れてきたりと少し不思議なことが起こる家。
今から100年ほど前、まだ妖怪や鬼がいた……かもしれない、古き良き日本を描いた物語。
『家守綺譚』感想

この作品を読んでいる間、終わらないでほしい。出会えて良かった。と何度も思いました。
主人公・綿貫の自宅には川の流れ込んでいる立派なお庭があって、季節ごとにさまざまな植物が楽しませてくれるのですが、この描写がとても素敵で。
現代人がなかなか持てない自然を愛でる時間、樹木から季節の移ろいを感じるひとときを過ごすことができました。
少し立ち止まって自然の中でゆっくり過ごしたい。そんな時にぴったりな作品です。
ポイントを3つに絞ってお伝えします。
POINT1.植物を知る
サルスベリ、白木蓮、百日草……目次には植物の名前がずらり。
季節ごとに咲き乱れる植物の描写が美しく、時にはストーリーにも効果をもたらします。
知らない草木は調べながら読み進めると、読了後には心の中に完成したお庭を持つ事ができてうっとりしてしまいました。
梨木さんは他の作品でも植物が登場するストーリーが多く、現代では機会が減ってしまった自然を愛でる気持ちを思い出させてくれます。
植物や自然が好きな方にはもちろんおすすめしたいのですが、私は現代を生きるすべての方に、この感覚を味わっていただきたいと思いました。
POINT2.主人公の人柄
主人公の綿貫は小説家の卵でいつも家にいるせいか、どこか浮世離れした雰囲気があり、周囲から心配されることもしばしば。
そこにつけ込まれるのでしょうか。狸に化かされたかと思えば、またある時は獣に家に住みつかれてしまい、次々と珍事が起きます。
そのいちいちに驚かされ、慌てふためく主人公。
それでも“人ならぬ存在”を受け入れ、困っている様子を見過ごせないお人好しで優しい彼のことがいつの間にか好きになっているはずです。
河童や妖怪(?)が出てくる少し不思議な物語なのですが、この主人公だからこそ恐怖感はなく温かな気持ちで読み進められるストーリーに仕上がったのではないでしょうか。
読後感のいい作品ですので、寝る前の読書にもピッタリです。
POINT.3古き良き日本を味わう
時代背景は明治から大正にかかる頃でしょうか。
家庭にやっと電気が通った頃、テレビもない部屋でガス燈を灯して日本家屋で過ごす主人公。
電子機器のない時代の日本で、なぜか掛け軸から登場する友人や庭先の植物に思いを巡らせる。
間違いなく不便なはずなのですが、現代を生きる私たちからするとこの生活が羨ましくさえ感じてしまいます。
令和の現代ではなかなか体験することの出来ない古き良き時代を疑似体験できる作品です。
『家守綺譚』の著者について
『家守綺譚』の著者である梨木香歩さんは、日本の小説家。
デビュー作『西の魔女が死んだ』で日本児童文学者協会新人賞を受賞。
以降も、自然や海外を題材とした作品を多数執筆しており、本書の姉妹作品である『村田エフェンディ滞土録』は、2005年度高校生向け指定課題図書にも選出されるなど、児童向け文学としても定評がある。
『家守綺譚』まとめ
今回は『家守綺譚』をご紹介しました。
少し立ち止まって自然の中でゆっくり過ごしたい。そんな時にぴったりな作品です。
ぜひ手に取ってみてください。