当記事は宮下奈都著『太陽のパスタ、豆のスープ』の書評です。
今回ご紹介する小説の主人公は婚約が破談になってしまい、物語は失意のどん底からスタートします。
主人公を通して悲しみと向き合うことで、あなた自身の苦しみや悲しみも消化するきっかけになるかもしれません。
あなたにとっての、良き一冊となりますように。
『太陽のパスタ、豆のスープ』あらすじ
結婚式直前に突然婚約を解消されてしまった明日羽。失意のどん底にいる彼女に、叔母のロッカさんが提案したのは”ドリフターズ(やりたいこと)・リスト”の作成だった。自分はこれまで悔いなく過ごしてきたか。相手の意見やその場の空気に流されていなかっただろうか。自分の心を見つめ直すことで明日羽は少しずつ成長してゆく。自らの気持ちに正直に生きたいと願う全ての人々におくる感動の物語。
『太陽のパスタ、豆のスープ』宮下奈都著 集英社文庫出版 (2013/1/25)より引用
2年も付き合ったのに、結婚式直前で婚約破棄されてしまった主人公の明日羽。
やりきれない思いを抱えた明日羽は、叔母のロッカさんから「やりたいことリスト」を書くことを勧められます。
やりたいことを叶えていくうち、自分が今まで「なんとなく」暮らしていたことに気がつく明日羽。自分と向き合うことで自身の甘さ、弱さ、そして人の優しさにも気づけるようになっていきます。
自分に自信が持てない方、傷ついているすべての人に送る心のビタミン小説。
ぜひ手にとってみてください。
『太陽のパスタ、豆のスープ』感想・レビュー
人が強くなる時って、自分の弱さを受け入れた時なんだな。
読み切って、私がしみじみ感じたことです。
「自分と向き合う」ってよく聞く言葉ですが、主人公の明日羽は婚約破棄をきっかけに「空っぽで何にもない自分」に嫌というほど気づかされます。
ですが彼女の良かったところは、そのダメな自分から逃げなかったこと。逃げずに受け入れることで、前に進んでいきます。
内省し、意識や考え方を整理する大切さを改めて感じました。
3つのポイントに整理して、本の感想をお伝えします。
POINT1. 自分には何もない。
婚約破棄され、叔母から「やりたいことリスト」を作ることを勧められて、主人公・明日羽はふと気がつきます。やりたいことなんかない、と。
あまり自主的に動くタイプでもなく、これといって趣味も特技もないことに気づき、自分には何もないんだ。とショックを受けます。
努力家の幼なじみや同僚に劣等感を持ちますが、一方でその人たちの生き方・考え方から人と比べるのではなく、自分を受け入れることが大事なんだと気がつきます。
自信を持つというよりかは、自分はこういう人間なんだと認める。このことに気づいた明日羽。気づいたからと言って、婚約破棄された現状は変わりませんが、前までの何となく生きていた彼女とは考え方も全然ちがっていて。
意識ひとつで人はこんなに変われるんだな、としみじみ感じました。
POINT2. 美味しそうなスープ
新しい鍋を買って、毎日使う。「やりたいことリスト」になんとなく書いたことがきっかけで料理をはじめた明日羽ですが、毎日料理を作るのってなかなか骨が折れること。
これまで実家暮らしで母に甘えていたこともあり、料理は食材選びから始まっているという基本的なことにもはじめて思い至ります。人の苦労って、端から見ているだけではわからないものですよね。
あらためて母の苦労を知り、ひとつのことを毎日続ける大変さを身をもって体感することで、成長していく主人公の様子に注目です。
POINT3. 自分と向き合って気づいたこと
作中で「自分には何もない」と語る主人公・明日羽。
そんな彼女が思い悩む姿は、同じように自分に自信が持てない方にこそ読んでもらいたいと思いましたし、明日羽のように自分を受け入れ、楽になるきっかけになればいいなと思いました。
最後に、主人公の成長が一番感じられるシーンを引用します。
私が選ぶもので私はつくられる。好んで選んだものも、ちょっと無理をして選んだものも、選ぼうとしなくても無意識のうちに選び取っていたものも。譲さんを選んだのも、そして譲さんに選ばれなかったのも、私だ。私に起こった出来事だ。それらは私の一部になる。私の身体の、私の心の、私の人生の。
それだけじゃない。選ばなくてもあるもの、選びたくても選べないもの。私は私なのだ。
(中略)
こうありたいと願うことこそが私をつくっていく。『太陽のパスタ、豆のスープ』宮下奈都著 集英社文庫出版 (2013/1/25)より引用
読み終わった頃に、こんなふうに前を向けたら最高ですよね。
『太陽のパスタ、豆のスープ』感想・まとめ
今回は、少し悲しいお話を紹介しましたが、主人公を通して悲しみと向き合うことであなた自身の苦しみや悲しみも消化するきっかけになるかもしれません。
もしも今、あなたが抱えきれない悲しみを持て余しているならば、ぜひ、手にとってみてください。
この小説が、あなたの心のデトックスになりますように。