『センセイの鞄』感想・レビュー・あらすじ|ゆっくりと美しい文章に癒される

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当記事は川上弘美著『センセイの鞄』の書評です。

今回ご紹介する小説は、ゆっくりと穏やかな文章に触れたい時におすすめの、大人の恋愛小説。

起伏の少ないストーリーですので、恋愛小説が苦手な方でも大丈夫
不器用な2人がゆっくりと愛を育んでいくストーリーにほっこりすること間違いなし。

あなたにとっての、良き一冊となりますように。

目次

『センセイの鞄』あらすじ

『センセイと鞄』あらすじ

駅前の居酒屋で高校の恩師と十数年ぶりに再会したツキコさんは、以来、憎まれ口をたたき合いながらセンセイと肴をつつき、酒をたしなみ、キノコ狩や花見、あるいは島へと出かけた。歳の差を超え、せつない心をたがいにかかえつつ流れてゆく、センセイと私の、ゆったりとした日々。

『センセイの鞄』川上弘美著 文春文庫出版 (2004/9/10)より引用

その謂れの通り、かつてのツキコさんの高校時代の先生である「センセイ」。
アラフォーになったツキコさんと呑み屋で再会するところから、ストーリーは始まります。

呑み屋で、またある時はお花見に、キノコ狩にと出かけながらゆっくりと愛情を育んでいく2人。

不器用でちょっぴり鈍臭い2人の織り成す、心温まる大人の恋愛小説

ほっこり温かい気持ちになれる作品ですので、少し立ち止まって休みたい時や、あまり感情を揺さぶられたくない時におすすめ。

ぜひ手に取ってみてください。

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『センセイの鞄』感想・レビュー

『センセイと鞄』感想・レビュー

優しくて、ちょっぴり切ない。読了後、じんわりと胸のあたりが温かくなる。そんな作品でした。

感情の高まりを描いた作品も良いですが、こんなに穏やかに恋愛小説を成立させる執筆力はさすがだなと。

風景や心理描写も丁寧で、センセイとツキコさんの暮らしている街の四季の移ろいや、呑み屋のカウンター席での情景までもくっきりと思い描けるので、まるで一本の映画を見終わったような充足感が感じられました。

3つのポイントに整理して、本の感想をお伝えします。

POINT1. 穏やかな気持ちで読める

大人の恋愛小説。本書にはそんな表現がしっくりくるのではないでしょうか。

運命的な出会いがあったり、一気に燃え上がったり……そんな気持ちの高まりを楽しむのも、恋愛小説の醍醐味ですよね。

ところが、本書の主人公である「センセイ」と「ツキコさん」の関係は、なかなか進みません。

ですが、このじわじわと温まっていく、ちょっぴりもどかしい感じがこの作品の良いところ。

打算や駆け引きなんてしない、不器用で優しい2人の世界観に浸ることができます。

POINT2. 美しい文章に触れる

著者である川上弘美さんの作品は他にも読んだことがあるのですが、彼女の描く美しい情景描写にはいつもうっとりさせられてしまいます。

私が特に好きなシーンはこちら。お互い憎からず想い合っているのに、なかなか先に進めない時の描写です。

子供が、ポップコーンを道にまいている。まいたとたんに、何十羽もの鳩が群がり寄ってくる。子供は驚きの声を発した。鳩は子供のてのひらの中にあるポップコーンをもつつこうとして、子供の体のまわりを飛びまわっている。子供は半泣きのまま立ちつくしていた。
(中略)
「泣くでしょうか、あの男の子は」センセイは興味しんしんといった様子で身をのりだしている。
「泣かないんじゃないかな」
「いや、男の子は、泣き虫が多いですから」
「反対じゃないんですか」
「いいえ、女の子よりも男の子の方が、よほど弱虫です」
「センセイも、小さいころは弱虫だったんですか」
「今だって、ずいぶんと弱虫ですよ」
男の子は、あんのじょう泣きだした。鳩が、頭のてっぺんにまでとまりに来たのだ。母親らしき女性が、笑いながら男の子を抱きあげた。

『センセイの鞄』川上弘美著 文春文庫出版 (2004/9/10)より引用

素敵な比喩だと思いませんか?

奥手なセンセイと、ストレートに想いをぶつけるツキコさんの関係性がよく現れた文章だなと、何度も読み返してしまいました。

ストーリーを楽しむのはもちろんですが、美しい表現がたくさん詰まっていますので、休日の昼下がりにでもゆっくりと文章を味わいながら読んでほしい作品です。

POINT3. 共感できるキャラクター設定

本書を読んでいてほんのり温かい気持ちになれる最大の理由。
それは「センセイ」と「ツキコさん」の人物像にあるのではないでしょうか。

2人は至って普通な、どこにでもいそうな人たちです。

真面目で奥手な「センセイ」と、アラフォーになった現在もイマイチ大人になりきれていないと感じている「ツキコさん」。

2人とも真面目にコツコツ生きているのに、世の中の流れについていけず、なんだか取り残されているような不器用な印象を受けます。

そんなダメな一面って、大なり小なり誰にでもあるもの。そしてそんなダメな部分が見えた時こそ、愛着が湧くものですよね。

読者の私たちは2人のことを、だからきっと、安心して受け入れられるのだと思いました。

『センセイの鞄』感想・まとめ

今回は、穏やかな気持ちになれる恋愛小説をご紹介しました。

笑ってしまうほど不器用なのに温かい2人に、癒されること間違いなし。

少し立ち止まって休みたい時、あまり感情を揺さぶられたくない時、あなたの心にそっと寄り添ってくれることでしょう。

ぜひ手に取ってみてください。

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