今回は、小川洋子さんの作品をご紹介します。
数々の文学賞を受賞している彼女の描く世界は、静謐でありながらどこか狂気に満ちていて、穏やかなのにチクリと痛みや孤独を感じるストーリーが特徴的。
なかでも情景描写に定評があり、読んでいるシーンが脳内に浮かんでくるような感覚に、小川ワールドに引き込まれていくのを感じます。
作品数が多く、どれから手をつけたらいいか迷ってしまう方も多いと思うので、皆さんの参考になれたら幸いです。
小川洋子小説おすすめ10選
今回は私が特に印象的だと思った作品をご紹介します。
長編小説から短編集まで揃っていますので、じっくり小川ワールドに浸るもよし。まずはサクッと世界観に触れてみるもよしです。
お気に入りの1冊が見つかりますように。
- 博士の愛した数式
- 妊娠カレンダー
- ミーナの行進
- 余白の愛
- 密やかな結晶
- 薬指の標本
- 刺繍する少女
- 貴婦人Aの蘇生
- 人質の朗読会
- 猫を抱いて象と泳ぐ
博士の愛した数式

[ぼくの記憶は80分しかもたない]博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた──記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。
『博士の愛した数式』小川洋子著 新潮文庫出版 (2005/12/1)より引用
本屋大賞を受賞したことで話題となった、小川洋子さんの出世作。
後に映画化もされたので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
小川洋子さんを初めて読む方に、まずはおすすめしたい1冊。
長編小説ですので、小川さんの世界観にどっぷり浸ることができます。
妊娠カレンダー

出産を控えた姉に毒薬の染まったジャムを食べさせる妹……妊娠をきっかけとした心理と生理のゆらぎを描く芥川賞受賞作「妊娠カレンダー」。謎に包まれた寂しい学生寮の物語「ドミトリイ」、小学校の給食室に魅せられた男の告白「夕暮れの給食室と雨のプール」。透きとおった悪夢のようにあざやかな三篇の小説。
『妊娠カレンダー』小川洋子著 文春文庫出版 (1994/2/10)より引用
芥川賞受賞作である「妊娠カレンダー」を収録した短編集。
1話70ページ程度のストーリーですので、入門編としておすすめです。
小川さんの描き出す、静謐な世界の中に潜むざらりとした違和感を存分に味わえる1冊。
ミーナの行進

美しくて、かよわくて、本を愛したミーナ。あなたとの思い出は、損なわれることがない──ミュンヘンオリンピックの年に芦屋の洋館で育まれた、ふたりの少女と、家族の物語。あたたかなイラストとともに小川洋子が贈る、新たなる傑作長編小説。
『ミーナの行進』小川洋子著 中公文庫出版 (2009/6/25)より引用
いとこ同士のミーナと朋子。親の都合で1年だけ一緒に暮らすことになった2人の、かけがえのない思い出を描いた心温まるストーリー。
舞台は日本なのですが、おしゃれな洋館や食事が出てきて海外の児童向け文学のような雰囲気が漂います。
温かい、ほっこりしたストーリーが好きな方におすすめです。
余白の愛

耳を病んだわたしの前にある日現れた速記者Y。その特別な指に惹かれたわたしが彼に求めたものは…。記憶の世界と現実の危ういはざまを行き来する。幻想的でロマンティックな長篇。瑞々しさと完成された美をあわせ持つ初期の傑作。
『余白の愛』小川洋子著 中公文庫出版 (2004/6/25)より引用
日常小説のはずなのに、どこか幻想的で不思議で小川ワールドを存分に堪能できるストーリー。
ファンタジーや少し変わった世界観が好きな方にもおすすめ。
また、本書が気に入った方は後にご紹介する『薬指の標本』もおすすめです。
密やかな結晶

その島では、記憶が少しずつ消滅していく。鳥、フェリー、香水、そして左足。何が消滅しても、島の人々は適応し、淡々と事実を受け入れていく。小説を書くことを生業とするわたしも、例外ではなかった。ある日、島から小説が消えるまでは……。刊行から25年以上経った今もなお世界で評価され続ける、不朽の名作。
『密やかな結晶』小川洋子著 講談社文庫出版 (2020/12/15)より引用
閉ざされた島で暮らす“私”。この島では、昨日まであった“何か”が消滅し、その記憶までもがなくなっていきます。
現代日本を風刺したかのようなストーリーにチクリと痛みを感じ、自分たちの在り方を考えさせられました。
ミステリーが好きな方にもおすすめしたい1冊。
詳しいレビューはこちら
薬指の標本

楽譜に書かれた音、愛鳥の骨、火傷の傷跡……。人々が思い出の品々を持ち込む〔標本室〕で働いているわたしは、ある日標本技術士に素敵な靴をプレゼントされた。「毎日その靴をはいてほしい。とにかくずっとだ。いいね」靴はあまりにも足にぴったりで、そしてわたしは……。奇妙な、そしてあまりにもひそやかなふたりの愛。恋愛の痛みと恍惚を透明感漂う文章で描いた珠玉の二篇。
『薬指の標本』小川洋子著 新潮文庫出版 (1998/1/1)より引用
80ページほどの短編が2つ収録されている本書。
長編を読む時間がない方にもおすすめ。
短いストーリーでも、しっかり世界観を味わうことができます。
また、本書が気に入った方には『余白の愛』もおすすめです。
刺繍する少女

これは記憶の奥深くに刺さった小さな棘。そこから始まる、愛と死の物語──終末期を迎えた母の入院先のホスピスで、僕は12歳のひと夏を高原の別荘でともに過ごした少女と再会する。彼女はそこで刺繍をしていた。小さな針先に自分を閉じ込め、虫を一匹一匹突き殺すように──
表題作ほか、日常のすぐ隣にある死、狂気、奇異を硬質な筆致で紡ぎ出した、ふるえるほどに美しく恐ろしい十の「残酷物語」を収録。
『刺繍する少女』小川洋子著 角川文庫出版 (1999/8/25)より引用
10の作品を収録された短編集。
どのストーリーも静けさに満ちていて、読了後に背中がぞくっとする、小川ワールドが炸裂しています。
狂気に満ちたストーリーが多く収録されているので、ミステリーやホラーが好きな方にもおすすめ。
貴婦人Aの蘇生

北極グマの剥製に顔をつっこんで絶命した伯父。法律書の生き埋めになって冷たくなっていた父。そして、死んだ動物たちに夜ごと刺繍をほどこす伯母。この謎の貴婦人は、はたしてロマノフ王朝の最後の生き残りなのか? 『博士の愛した数式』で第1回本屋大賞を受賞し、多くの新たな読者を獲得した芥川賞作家が、失われたものの世界を硬質な文体で描いた、とびきりクールな傑作長編小説。
『貴婦人Aの蘇生』小川洋子著 角川文庫出版 (2005/12/30)より引用
出自不明な伯母に突如持ち上がった、ロマノフ王朝の生き残り説。
彼女は何者なのか?伯父の遺品を狙う剥製マニアの目論みは……?
胸がじーんと温かくなる物語。
人質の朗読会

遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた──慎み深い拍手で始まる朗読会。祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは、人質たちと見張り役の犯人、そして……。
人生のささやかな一場面が鮮やかに甦る。それは絶望ではなく、今日を生きるための物語。しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界。
『人質の朗読会』小川洋子著 中公文庫出版 (2014/2/25)より引用
旅行ツアーのマイクロバスが反政府ゲリラの襲撃を受け、バスごと拉致された──。
全員死亡のショッキングな結末の最中、ある一本のテープが公開される。
内容は、人質の一人ひとりが自らの思い出を語らう“人質の朗読会”。
不思議と静かな気持ちで読み進められる本屋大賞ノミネート作品。
猫を抱いて象と泳ぐ

「大きくなること、それは悲劇である」。この箴言を胸に十一歳の身体のまま成長を止めた少年は、からくり人形を操りチェスを指すリトル・アリョーヒンとなる。盤面の海に無限の可能性を見出す彼は、いつしか「盤下の詩人」として奇跡のような棋譜を生み出す。静謐にして美しい、小川ワールドの到達点を示す傑作。
『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子著 文春文庫出版 (2011/7/10)より引用
こちらも本屋大賞ノミネート作品です。
チェスがテーマというだけあって、海外文学のような雰囲気を感じる1冊。
世界チャンピオン・アリョーヒンに擬え、チェスの世界にのめり込んでいく“リトル・アリョーヒン”。
私たち読者もどんどんストーリーに引き込まれます。
海外文学が好きな方にもおすすめしたい、小川ワールドを存分に味わえる作品です。
小川洋子小説おすすめ10選・まとめ
今回は、小川洋子さんの作品をご紹介しました。
“小川ワールド”と言われる独特な世界観を存分に味わえる作品をセレクトしてみましたので、あなたの心に響く1冊が見つかれば幸いです。