当記事は江國香織著『号泣する準備はできていた』の書評です。
今回ご紹介する小説は、恋愛にまつわるストーリーを集めた短編集。
読了後、胸が温かくなるストーリーもあれば、ズキンと痛みを感じるストーリーも。
なかには、あなたの気持ちに寄り添ってくれるストーリーも見つかるかもしれません。
1話20ページほどの短編ですので、眠る前のほんのひとときに手にとってみてください。
『号泣する準備はできていた』とは?
『号泣する準備はできていた』は、2003年に新潮社より出版された江國香織の恋愛小説。
本書で直木賞を受賞し、彼女の代表作とも言われています。
『号泣する準備はできていた』あらすじ
私はたぶん泣きだすべきだったのだ。身も心もみちたりていた恋が終わり、淋しさのあまりねじ切れてしまいそうだったのだから——。濃密な恋がそこなわれていく悲しみを描く表題作のほか、17歳のほろ苦い初デートの思い出を綴った「じゃこじゃこのビスケット」など12篇。号泣するほどの悲しみが不意におとずれても、きっと大丈夫、切り抜けられる……。そう囁いてくれる直木賞受賞短編集。
『号泣する準備はできていた』江國香織著 新潮文庫出版 (2006/7/1)より引用
12話の失恋にまつわるストーリーを収録した短編集。
1話20ページほどの短編でありながら、どの物語の主人公も鮮烈な個性を見せつけてくる、記憶に残るストーリー。
さまざまな愛のかたちがあること、さまざまな関係性の築き方があることを教えてくれる短編集。
読了後、過去を振り返ってちょっぴりしんみりしてしまう。そんな作品です。
ぜひ手に取ってみてください。
『号泣する準備はできていた』感想・レビュー
江國香織さんは人の感情を揺さぶるのが上手い。短いストーリーなのに、心に爪痕を残してくるものばかりでした。
私は彼女の描く世界観が好きで、他にもおすすめしたい作品がたくさんあるのですが、どの作品も1人1人の登場人物に奥行きがあって、この後の人生やバックグラウンドまで想像させてくれる描写が特徴的です。
どの人物も人を愛し、愛され、あるいはその記憶をたどって生きています。幸福な気持ちになれるストーリーもあれば、中には心に影を残すような、不穏なストーリーも。
12話のストーリーの中に、あなたと似たような人や出会ったことがあるような人物も出てくるかもしれません。
3つのポイントに整理して、本の感想をお伝えします。
POINT1. ドキッとする心理描写
江國香織さんの小説を読むと、いつも胸がザワザワして居心地が悪い気がするのは私だけでしょうか。
なのに、不思議とまた読みたくなってしまう。なぜなのでしょうか。
江國さんの作品はどれも心理描写がとても深くて、人のズルい部分や普段見過ごしている感情にスポットライトを当ててくるような気がして。
見たくない部分、見なくていい部分が露わになる描写にギクッとさせられるのです。
でも、自分の「暗い部分」を認識する作業は不思議とクセになってしまって、また読みたくなってしまうんですよね。
読み終わった後は一周回ってなんだか爽快な気分になれるので不思議です。
POINT2. 作者の執筆力
江國さんの文章には“余白”がある。
その“余白”から、心情や関係性を感じ取らせるのが上手い作家さんだなと思います。
愛されている時の充足感、関係性が終わりに向かうときの焦燥感。
どのシーンもとっても鮮やかで目を背けたくなるようなストーリーもあるのですが、読了後の胸がチクリと痛む感覚がクセになってしまうので不思議です。
恋愛というテーマだけで、これだけのバリエーションが描ける作者の執筆力を楽しんでいただきたい。そんな短編集です。
POINT3. 10分足らずでリフレッシュ
本書は12話のストーリーからなる短編集。
1話20ページほどで読み切ることが出来ますので、忙しくて時間のない時も寝る前のほんのの10分足らずで別の世界に連れていってくれます。
恋愛ものの長編小説も素敵ですが、長編を読む時間と体力がない方でも大丈夫。巧みな文章力で紡がれたストーリーは短編とは思えないほど濃い作品ばかり。
旅行のお供に、寝る前に1日1話ずつ。繋がりを気にせず好きな時に好きなだけ楽しめる短編集です。
『号泣する準備はできていた』の著者について
『号泣する準備はできていた』の著書である江國香織さんは、小説のほかに絵本の制作や翻訳もされています。
学生時代に執筆活動をスタートしてから実に70以上の作品を生み出されており、直木賞をはじめとする数々の文学賞の受賞歴があります。
小説の題材としては恋愛をモチーフにしたものが多く、心の機微や心理描写に定評がある。
『号泣する準備はできていた』感想・まとめ
今回は、失恋した時に読みたい短編集をご紹介しました。
悲しい気持ちに寄り添ってくれる主人公、あるいは、あなたの気持ちを代弁してくれる主人公が見つかるかもしれません。
ぜひ手に取ってみてください。