当記事は近藤史恵著『タルト・タタンの夢』の書評です。
今回は、グルメなミステリー小説をご紹介します。
一口にミステリーと言っても、密室、探偵もの、叙述トリックなどなど、いろいろなタイプがあるかと思いますが、『タルト・タタンの夢』は、ジャンルで言うとコージー・ミステリーにあたるでしょうか。
殺人など血生臭い事件は起きず、日常のなかで起こる謎を解決していくタイプのミステリーですので、穏やかな気持ちで読めます。
美味しそうな料理がたくさん登場しますので、お客さんの一員になった気持ちで休日前の晩酌にワインとチーズと読書、なんて過ごし方はいかがでしょうか。
あなたにとっての、良き一冊となりますように。
『タルト・タタンの夢』あらすじ
商店街の小さなフレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マル。シェフ三舟の料理は、気取らない、本当にフランス料理が好きな客の心と舌をつかむものばかり。そんな彼が、客たちの巻き込まれた事件や不可解な出来事の謎をあざやかに解く。常連の西田さんが体調を崩したわけは? フランス人の恋人はなぜ最低のカスレをつくったのか? 絶品料理の数々と極上のミステリをどうぞ!
『タルト・タタンの夢』近藤史恵著 創元推理文庫出版 (2014/4/30)より引用
日本の下町でフレンチ料理店を営む三舟シェフ。本場・フランスで修行してきた確かな腕前で、今日も客たちをうならせます。
そんな三舟シェフ、何気ない会話の中からお客様の抱えるちょっとした謎を解決してしまう名探偵としての一面もあって。
美味しい料理とミステリーが一度に味わえる「美味しいミステリー小説」。
そう、タイトルからは想像できないかもしれませんが、本書はミステリー小説なのです。とは言っても1話完結型の短編形式ですので、頭を使って推理するようなものではなく、三舟シェフの謎解きに身をゆだねて、リラックスして読めますのでご安心を。
シリーズ化されていて、本書を皮切りにこの記事を執筆時点では3冊出版されています。どこから読んでもかまいませんが、三舟シェフと共に働くスタッフたちとの関係性や、過去もだんだんと明らかになっていくのでまず初めに本書を読むのがオススメ。
自宅にいながら、小洒落た気分に浸れる1冊。ぜひ手にとってみてください。
『タルト・タタンの夢』感想・レビュー
あったかいミステリー小説。本書にはこんな肩書きがしっくりくるかもしれません。
人は死にませんし、事件も起きない。あくまでお店に訪れるお客さんたちの日常に起きた小さな「謎」をシェフが解き明かしてくれるだけ。
そして、その真相には人の想いや愛情が隠されていた……そんな、あたたかな気持ちになれるストーリーが7話収録されています。
普段は無口でクールなシェフですが「謎解き」のシーンでは深い洞察力の持ち主であることが伝わってきますし、ぶっきらぼうなようで愛情のある言葉をかけてくれるシーンでは、胸がジーンと熱くなってしまいました。
読み終わる頃には、この無愛想なシェフのことが好きになってしまうこと間違いなし。
3つのポイントに整理して、本の感想をお伝えします。
POINT1. 本格ミステリー
タイトル、そして表紙からは想像もつきませんが、本書はミステリー小説です。
ですが、誰が犯人なんだ……?と、頭を使う必要はなし。お店に訪れたお客様から聞いた話だけで、シェフがたちまち解決してくれます。
ミステリーの内容も人が死んだりするようなものではなく、ちょっとした日常生活で起きたハプニングや不思議なエピソード、という雰囲気ですのでリラックスして読めますし、あたたかいストーリーのものばかり。
読み終わる頃には、ほっこりと落ち着いた気持ちになれるでしょう。
POINT2. シェフの作るフレンチが美味しそう
気取らないフランスの家庭料理を。というのが、ビストロ・パ・マルのコンセプトだそうですが、とはいえ、出てくる料理はどれも、家庭ではお目にかかれないようなプロの料理ばかり。
ですが店内の雰囲気はかしこまったものではなく、アットホームでなんとも安心感があります。料理の名前が出てくるたびに、どんな味なんだろう……とワクワクが止まりませんでした。
そして注目すべきは、どの「謎」も料理にまつわるものだという点。フランス料理に詳しい方だと、もしかしたら三舟シェフと同じタイミングで「謎解き」が出来ちゃうのかもしれません。
私はフランス料理の知識がなかったのですが、それでもシェフやスタッフの方々の解説が入るので、フランス料理のうんちくやエピソードが知れて勉強になりました。
POINT3. 三舟シェフの胸に響く言葉
普段はクールなシェフ。ですが最後まで読むと、本当は情に深くて優しい人だということがわかるはず。
謎解きのシーンでは、真相を知って驚くお客さんに説教めいたことを言うのではなく、あくまで背中を押してくれるような、人の心に響く言葉を授けてくれます。
押しつけるでもなく、あくまで本人が納得するための言葉をかけられる「人間力」に読者である私たちもハッとさせられて、自分を振り返るきっかけを与えてくれます。
自分のことをあまり語らないので謎の多いシェフですが、シリーズものなのでだんだんと明らかになっていく過去にも注目です。
『タルト・タタンの夢』感想・まとめ
今回は、あたたかい気持ちになれるコージー・ミステリーをご紹介しました。
ミステリー小説が読みたいけれど、怖いのは嫌だな……そんな時にも安心して読める作品です。休日前夜にワインとチーズを買い込んで、夜更かししながら読書……なんだかオシャレですね。
自宅にいながら、美味しい料理と本格ミステリーが一度に味わえる「美味しいミステリー小説」ぜひ手にとってみてください。