当記事は『八月の六日間』の書評です。
登山、山歩き。
ハードできついイメージがあるでしょうか。
今回ご紹介する小説は、女性編集者が山歩きを通して自分と向き合い、受け入れていくストーリーです。
主人公は決して体育会系なマインドではなく、ごく普通の社会人ですのでご安心を。
登山に馴染みのない方でも楽しめるストーリーになっています。
『八月の六日間』とは?
『八月の六日間』は、2016年に角川文庫より出版された。
出版社で働く主人公が、山歩きを通して己と向き合い浄化されていく様子を描いた連作短編集。
『八月の六日間』あらすじ

40歳目前、雑誌の副編集長をしているわたし。仕事はハードで、私生活も不調気味。そんな時、山歩きの魅力に出逢った。山の美しさ、恐ろしさ、人との一期一会を経て、わたしは「日常」と柔らかく和解していく――。
『八月の六日間』北村薫著 角川文庫出版 (2016/6/18)より引用
主人公の“私”は、キャリア15年以上の雑誌の副編集長。そんなふうに書くと、アクティブなバリキャリという印象を持つかもしれません。
しかし、主人公は精算し損ねた過去のモヤモヤを引きずっていて……。
山歩きを通して少しずつ自分と向き合い、受け入れていく心温まるストーリー。
『八月の六日間』感想・レビュー

仕事上のモヤモヤ、プライベートの消化不良……生きていれば皆それなりに感じるストレスを、趣味の山歩きで見事に精算していく主人公に爽快感を感じる作品でした。
彼女の機嫌の取り方は、誰しも参考になると思います。
それから、本好きには堪らない要素がもう一つ。
主人公は出版社で働いているということもあり、読書好きで山にも必ず本を持っていくのですが、その本が現存するもので、内容にも触れられているのです。
思いがけず新たな本との出会いに、その作品も読んでみようかなと連鎖反応が起きる楽しみも。
おすすめポイントを3つに絞ってお伝えします。
POINT1.自然の素晴らしさを体験できる
主人公は山登りが趣味で、夏の北アルプスから冬山まで実にさまざまな山に挑戦します。
その描写がとても鮮烈で、山の空気や景色が目の前に浮かび、まるで主人公と一緒に山歩きをしているような気分にさせてくれるのです。
山小屋でビールを啜り、好きな本を読み、温泉に浸かって疲れを癒す……。
そんなことを主人公と一緒に体験している気分で、読み終えた時の爽快感ったらありませんでした。
私は元々山登りが好きなのですが、登山をしない方にも分かりやすい描写になっていますのでご安心を。
雄大な自然を目の当たりにして遠出したような気持ちにさせてくれるので、登山好きはもちろんのこと、旅行記や自然をテーマにした作品が好きな方にもおすすめしたい作品です。
POINT2.自分の機嫌の取り方に注目
主人公は出版社勤務の30代後半女性。
責任ある立場を任され、上司と部下に挟まれ汲々としながらも、プライドを持って職務にあたる姿は共感を覚える方も多いはず。
特に彼女の素敵だなと思ったところは、いろいろ思うことはあるけれど、文句や泣き言は言わずに大好きな山登りで精算しようとするところです。
好きなことで心を動かして、また明日から一生懸命働く。なんて健やかな大人なんでしょう。
彼女と同年代の方もそうでない方も、ストレス社会で働く現代人にはきっと参考になるマインドです。
働くすべての人に読んでほしいなと思いました。
POINT3.過去の精算
主人公は山歩きの最中、さまざまなことを考えます。
もう何十年も前の学生時代の出来事、前の彼と付き合っていた頃のこと、そして失恋……。
誰しも心の中にある消化不良のまま抱えているような出来事と、主人公は山を歩きながら向き合っていきます。
劇的な何かが起こるのではなく、己の思いと対峙して自身を客観的に見直していく様子に自分を重ね、これでいいんだと安心したことを覚えています。
なんとなく手放せないモヤモヤを抱えている時に、手放し方のヒントをくれるかもしれません。
『八月の六日間』の著者について
『八月の六日間』の著者である北村薫は、高校の国語教師をしていた頃に執筆した『空飛ぶ馬』(1989年)でデビューした。
ミステリーに定評があり、『鷺と雪』(2009年)で直木賞受賞。
『八月の六日間』まとめ
今回は『八月の六日間』をご紹介しました。
ただただ自然に圧倒され癒されるも良し、自分と向き合うヒントをもらうも良し。
読了後は爽快な気分にさせてくれる作品です。
ぜひ手に取ってみてください。