当記事は加藤廣著『信長の棺』の書評です。
今回ご紹介する小説は、歴史小説です。
主人公は、織田信長の伝記である『信長公記』を書いた太田牛一。そう、実在した人物です。
もともと信長の家臣のひとりであった彼が『信長公記』の執筆を任され、信長の幼少期や生い立ちを知る人々を訪ね歩くストーリーとなっています。
信長由来の小説というと戦のシーンは必須で、血生臭い内容が多いですが、本書は信長の生涯を追っていく構成ですので戦闘シーンなどはほとんど出てきません。
名前はもちろん知っているけれど、生い立ちまではそんなに詳しく知らない。そんな方にぜひ読んでいただきたい、信長の知られざるエピソード譚。
それでは、どうぞ。
『信長の棺』あらすじ
信長の遺体がない——。
本能寺の変で命を落とした織田信長の遺体が見つかっていない。というエピソードはご存知の方も多いのではないでしょうか。
本作の主人公は織田信長の伝記である『信長公記』を書いた太田牛一。信長亡き後、彼のルーツを訪ねて歩き、行方不明の遺体の謎を追っていくストーリー。
織田信長をモチーフにした歴史小説は数多くありますが、彼の生い立ちや幼少期にまで迫っていく内容は珍しいのではないでしょうか。
読者も主人公とともに、織田信長のルーツをたどることができます。
ぜひ手にとってみてください。
『信長の棺』感想・レビュー
歴史小説なのですが、同時にお仕事小説であり、ミステリー小説とも言えるかもしれません。
ストーリーの軸としては信長の伝記を書くための取材の様相を呈しながら、消えた遺体の行方を追っていく——。この設定で面白くないはずがありません。
はじめのパートでは伝記を書く執筆家・太田牛一の仕事人としての姿勢に学ぶべきものがありましたし、後半は遺体の行方を追うミステリー要素が濃くなりあっという間に読了してしまいました。
主人公は執筆が仕事なので、歴史小説によくある戦のシーンなどは出てきません。ですので、ふだん歴史小説を読まない方でも大丈夫。
ミステリー小説、あるいはお仕事小説が好きな方にもおすすめです。
3つのポイントに整理して、本の感想をお伝えします。
POINT1. 信長の知られざる一面に迫る
ところであなたは、信長のことをどれくらいご存知ですか?
天下統一しようとした人?本能寺の変で裏切られた人?このあたりは歴史の教科書でもおなじみですよね。
では、幼少期のことはご存知でしょうか?地方大名から、天下に名を轟かせるまでになった経緯は?この辺りを掘り下げている文献って、意外とそんなに多くはないんです。
実際の『信長公記』は、たくさんのエピソードを削ぎ落として完成されたものですが、本書はその過程を描いたストーリーですから、泣く泣く捨てたエピソードも掲載されていて、信長の意外な一面を知ることができます。
教科書とも、伝記ともまた違った楽しみ方ができる作品となっています。
POINT2. 仕事の精度
本書の主人公である太田牛一は『信長公記』のほかにも豊臣秀吉・徳川家康など有名武将の伝記も残しており、執筆者として非常に優秀だったそう。
ではなぜ、織田信長の家臣のひとりであった彼が伝記の執筆係に選ばれたのか。
彼はとても「筆まめ」で信長に仕えてから毎日欠かさず、その日の仕事中の出来事や同僚とのちょっとした会話まで、日記のようにして書き溜めていたのだそう。
その膨大な「資料」と文才を買われて、執筆を任されたのですね。
時には、伝記の主人公である信長のことを嫌っていた人物にも話を聞きにいくあたりは、仕事人としてリスペクトの念を抱きました。
手を抜かない、偏見や私情をなるべく排除しようという彼の真摯な姿勢が、伝記を任されるほどの信頼を生んだのでしょうし、私もそういう人間でありたい。と背筋が伸びる思いでした。
時代は違いますが、彼の仕事への取り組み方は参考になるかもしれません。
POINT3. 消えた遺体の謎は?
消えた遺体の行方を追うというミステリー要素を絡めておきながら、きちんと史実に基づいているのがこの小説のすごいところ。
本書の巻末には、30冊以上の参考文献が載っていました。
作者の加藤廣さんは、それだけの膨大な情報から綿密にこのミステリーを考えられたんだなと思うと納得でしたし、どこまでが史実通りで、どこからがフィクションなのか?あるいはすべて史実通りなのか?そんなことを想像しながら読むのも面白かったです。
あまり歴史小説を読まない方でも、これを機に『信長公記』が読みたくなってしまうかも。
『信長の棺』感想・まとめ
消えた遺体の謎に迫る——。ミステリーと歴史をかけ合わせた作品をご紹介しました。
どこまでが本当で、どこからがフィクションなのか?そんなことを推理しながらの読書も面白いかもしれません。これを機に、歴史に興味を持つ。そんなきっかけにもなったら最高ですね。
ミステリー小説、あるいはお仕事小説が好きな方にもおすすめの1冊。
ぜひ手にとってみてください。