当記事はトーベ・ヤンソン著『ムーミン』シリーズの書評です。
フィンランド出身のキャラクターですが、日本では言わずと知れた人気者ですよね。
近年の北欧ブームも手伝って、雑貨屋さんでは必ずと言っていいほどグッズが置いてありますが、実は小説が原作だということをご存知でしょうか。
キャラクターものなので子供向けかと思いきや、読んでみるとびっくり。あのかわいいキャラクターたちが教訓めいたセリフを言い、哲学的な要素がたくさん詰まっているではありませんか。
軽い気持ちで読み始めたのですが、これはずっと手元に置いておいて何度も読み返すべき作品だと感じたので、今回おすすめすることにしました。
きっと何度読み返してもその時々の自分に必要なことを教え、導いてくれるはず。
あなたにとっての、良き一冊となりますように。
『ムーミン』シリーズの順番とあらすじ
ムーミン谷は、とてもきれいなところです。ムーミンをはじめとする小さな生き物たちがたくさん幸せに暮らしていて、探検したり、ピクニックしたりしながら毎日を楽しく過ごしています。
しかし、時には困難なことも起きます。彗星が地球にせまってきたり、火山が噴火して洪水がおしよせてきたり……。
起きたことに心を痛めながらも、受け入れてやり過ごそうとするムーミン一家の姿は現代社会を生きる私たちとリンクするものがあり、気持ちの持ち方、ゆるめ方が大変参考になりました。
全9巻のシリーズものですが、1巻完結型なのでどこから読んでも問題ありません。
- ムーミン谷の彗星
- たのしいムーミン一家
- ムーミンパパの思い出
- ムーミン谷の夏まつり
- ムーミン谷の冬
- ムーミン谷の仲間たち
- ムーミンパパ海へいく
- ムーミン谷の十一月
- 小さなトロールと大きな洪水
順番は日本での発行順に並べていますが、実は9巻めの「小さなトロールと大きな洪水」が1番初めのストーリーなんだそう。
もともとは創作活動の中でなんとなく描きかけたままになっていた、未完成のショートストーリーだったそうです。ムーミンシリーズの1〜8巻が発行されたのちに再編集され、9巻めとして最後に出版されたのだそうです。
ですので、時系列で読みたい方は9巻を読んだ後に1巻から進めていくのがおすすめです。
1冊ずつ、あらすじを解説していきますね。
『ムーミン谷の彗星』あらすじ
長い尾をひいた彗星が地球にむかってくるというのでムーミン谷は大さわぎ。ムーミントロールは仲よしのスニフと遠くの天文台に彗星を調べに出発し、スナフキンや可憐なスノークのお嬢さんと友達になるが、やがて火の玉のような彗星が……。国際アンデルセン賞受賞作家ヤンソンの愛着深いファンタジー。
『ムーミン谷の彗星』ヤンソン著 講談社文庫出版 (2011/4/15)より引用
物語は、彗星が地球にぶつかるかもしれない。地球が壊れるかもしれない、という不穏な空気で始まります。ムーミンと友だちのスニフは不安にかられ、彗星の軌道を調べるために天文台を目指して旅に出ます。
ヤンソンさんがこの作品を描かれたのは、第二次世界大戦の直後だったそう。そのせいか、当時のフィンランドの人たちが感じていたであろう、自分たちの生活が脅かされる不安な空気感が物語に強く反映されているように感じました。
その雰囲気は、出てくるキャラクターたちの性格にも反映されていて、友だちのスニフは臆病者で悲観的。彗星の到来を教えてくれる「じゃこうねずみさん」も、世の中に期待するのを諦めてしまったような、どこかもの寂しい気配をまとっています。きっと当時、フィンランドにはスニフや、じゃこうねずみさんのような人がたくさんいたのでしょうね。
そんな世の中ですから、ヤンソンさんはきっと物語に「救い」を求めていたのではないかな、と感じました。
それはこのストーリーが最終的にハッピーエンドで終わることからも見てとれますし、道中で出会ったスナフキンと共にいかだで川をくだるシーンがあるのですが、流れがはやく転覆しそうになる場面でのスナフキンの発言がこちら。
「でも、冒険物語じゃ、かならず助かることになっているんだよ。」
なかなかメタいですよね。ピンチが訪れても、物語の主人公のように最後には助かる。そんな願いが感じられました。
『たのしいムーミン一家』あらすじ
長い冬眠からさめたムーミントロールは、仲よしのスナフキンとスニフといっしょに、海べりの山の頂上で黒いぼうしを発見します。ところが、それはものの形をかえてしまう魔法のぼうしだったことから、次々にふしぎな事件がおこって……。国際アンデルセン賞受賞のヤンソンがえがく、白夜のムーミン谷のユーモアとファンタジー。
『たのしいムーミン一家』ヤンソン著 講談社文庫出版 (2011/4/15)より引用
ストーリーは、ムーミンが冬眠から目覚めるところから始まります。
この春さいしょのカッコウが鳴き、ムーミン谷に住む生きものたちはいっせいに活動をはじめます。前作とはガラッと雰囲気が変わり、物語全体に「これから新しいことが始まる時の高揚感」が漂っています。
スナフキンと山に登ることにしたムーミンたちは、頂上で黒いシルクハットを見つけます。不思議に思いながらも持ち帰ると、なんとそのシルクハットの中に入ったものは形が変わってしまうのです。
今回は山に登ってみたり、一家全員で海にこぎ出して冒険に出たりと、さまざまなことに挑戦します。前作では不安でいっぱいの旅でしたが、今回は家族みんなで楽しみながらの冒険で、作者のヤンソンさんを取り巻く環境にも光が見えてきたのかな……なんて想像してしまいました。
相変わらず、不安や不満を口にするキャラクターは登場するのですが、今作ではそんなキャラクターたちも肯定的に受け止められていて、お互いを尊重する「余裕」が感じられました。
『ムーミンパパの思い出』あらすじ
自由と冒険を求めて海にのりだした青年時代のムーミンパパ。ユーモラスな竜との戦い、あらしでたどりついたゆかいな王さまの島、おばけと同居したり、深海にもぐったり……さまざまな冒険をしながら、ムーミンママと劇的な出会いをするまでをパパが書いた、ファンタジーあふれるムーミン物語の傑作。
『ムーミンパパの思い出』ヤンソン著 講談社文庫出版 (2011/5/13)より引用
風邪をひいて寝込んでしまったムーミンパパ。することもなく退屈していると、ムーミンママから「思い出の記」を描くことをすすめられます。
すっかり乗り気になったムーミンパパは、幼少期からの自伝を描き始めます……そう、今回の主人公はムーミンパパ。
仲間たちと海に乗り出す若き日の冒険物語なのですが、ただの日記ではなく体験から得た教訓や気づきも描かれていて、意外と深い内容となっています。
物語の冒頭で多少(?)の誇張を交えている。という「ことわり書き」があるのですが、多少どころかかなり盛ってない?というシーンがちょくちょく出てくるのは、かっこつけたいパパのご愛嬌ということで(笑)
ですが、物語の締めくくりは文句なしに素敵で、ほっこりすること間違いなし。
そしてヤンソンさんのエンディングの言葉がとても素晴らしいので、ここに引用します。
あたらしい門のとびらがひらかれます。不可能を可能にすることもできます。あたらしい日がはじまるのです。そして、もし人がそれに反対するのでなければ、どんなことでもおこりうるのです。
『ムーミンパパの思い出』ヤンソン著 講談社文庫出版 (2011/5/13)より引用
『ムーミン谷の夏まつり』あらすじ
ジャスミンの香りにつつまれた六月の美しいムーミン谷をおそった火山の噴火。大水がおしよせてきて、ムーミン一家や動物たちは流され、ちょうど流れてきた劇場に移り住むことにした。ところが、劇場を知らないみんなが劇をはじめることになって……。国際アンデルセン賞受賞作家の楽しいファンタジー。
『ムーミン谷の夏まつり』ヤンソン著 講談社文庫出版 (2011/5/13)より引用
今回は、火山が噴火しムーミン谷に洪水が押し寄せます。ムーミン一家の家も水没してしまうのですが、1巻の『ムーミン谷の彗星』の頃と違って悲壮感はなく、みんなで前向きに乗り越えようとします。
このストーリの中で、一家のたくましさを象徴している私の大好きなシーンをご紹介します。
洪水がきてはじめて迎えた朝のシーン。
家のリビングとキッチンが水没している状況が明らかになり、ひどいありさまの中でまずパパが放った一言がこちら。
「それはそうと、朝のコーヒーがないよ」
これを皮切りに、みんなで朝ごはんとコーヒーの準備をはじめます。ムーミンが水没している家の中から泳いでコーヒー缶を見つけてきたと思えば、この状況下で「すてきなピクニック」をするためにみんなで泳いだり、もぐったりしながらパンやジャムを探してきます。
そして無事に朝ごはんを終えたムーミンママは、高らかに宣言します。
「きょうは、お皿をあらわないわ!」
そう、すでに水没しているから。それをこんなユーモアのある言い方が出来るなんてすごいですよね。どうにもならないことは受け入れてやり過ごそうとする心意気は、ヤンソンさんの戦争体験からきているのかもしれません。
そこに悲壮感ではなく、ユーモアを加えられるようになったところに人としての成長や余裕が感じられます。
私たちも、現代社会を生き抜くための心構えというか、気の緩め方は参考にしたいものですね。
『ムーミン谷の冬』あらすじ
まっ白な雪にとざされたムーミン谷。パパとママといっしょに冬眠にはいったのに、どうしたわけか春がこないうちにたった一人眠りからさめてしまったムーミントロール。はじめて知る冬の世界で彼のすばらしい冒険がはじまった……。冬のムーミン谷を舞台にヤンソンがつづるファンタジー童話の傑作。
『ムーミン谷の冬』ヤンソン著 講談社文庫出版 (2011/6/15)より引用
11月〜4月まで冬眠する習慣をもっているムーミン一家。これはもう先祖代々の習わしで、2巻めの『たのしいムーミン一家』では春になり、冬眠から目覚めるシーンから物語がはじまります。
なのに今回はなぜだか1人だけ、冬の間に目を覚ましてしまったムーミン。初めて知る「冬の世界」に戸惑いながらも、森で出会った「おしゃまさん」と、冬眠しない生き物たちと一緒に冬を越すことにします。
だけどなかなか意見が合わなかったり衝突したりして、はじめのうちはうまくいきません。そのうえ、いつも相談にのってくれる友だちはみんな冬眠しているので、助けてくれる人もいなくて、孤独と寂しさに打ちひしがれそうになります。
それでも、みんなが気持ちよく過ごせるように工夫しながら、なんとか冬を乗り越えたムーミン。
すぐに助けを求めてばかりいないで、ちょっとばかり苦しいことがあっても自分で経験して乗り越えたほうがいい。ということに気がつきます。春を迎えて、自分自身の心の成長に気づき、嬉しくなってしまうムーミンにほっこりすること間違いなしです。
そして、いつも冒頭に載っているムーミン谷の地図ですが、今回は地図も冬バージョンになっているので、いつもとの違いを見比べてみるのもおもしろいかもしれません。
『ムーミン谷の仲間たち』あらすじ
すてきなムーミン一家を中心に北国のムーミン谷にすむ仲間たちの楽しい生活を描いた九つの短編集。ムーミントロールの親友で孤独と自由を愛する詩人のスナフキン、空想力豊かなホムサ、おくびょうで、なき虫のスニフ……。国際アンデルセン賞受賞作家ヤンソンの詩情あふれる楽しいファンタジー。
『ムーミン谷の仲間たち』ヤンソン著 講談社文庫出版 (2011/7/15)より引用
今回は、初の短編集。これまでサイドキャラクターとして出てきたスナフキンやヘムレンさんが主人公のショートストーリーが9話収録されています。
それぞれのお話に関連はありませんが、どの作品でも共通してヤンソンさんが訴えているのは「個々を尊重する精神」ではないかと感じました。
出てくるキャラクターの中には、自由を求めてさまよう者もいれば、意地悪をされて姿が見えなくなった女の子もいます。
それぞれが何かを求めて、あるいは何かから逃げたくて心をとらわれているけれど、それは気持ちの問題で、それぞれ自分のしたいように生きる権利があり、そうして良いんだ。と導いてくれるようなストーリーが多かったように感じます。
これまでのストーリーに出てきたキャラクターが登場しますので、本編とはまた違った一面が見られて、ますますこのキャラクターたちが好きになるはずです。
『ムーミンパパ海へいく』あらすじ
かわいいムーミントロールとやさしいママ、おしゃまなミイにすてきな仲間たち。毎日が平和すぎてものたりないムーミンパパは、ある日一家で海をわたり小島の灯台守になります。海はやさしく、ある時はきびしく一家に接し、パパはそんな海を調べるのにたいへんです。機知とユーモアあふれるムーミン物語。
『ムーミンパパ海へいく』ヤンソン著 講談社文庫出版 (2011/8/12)より引用
またまたムーミン一家は旅に出ます。ムーミン谷での生活に飽きてしまったムーミンパパが、灯台守になるため家族と共に海に乗り出すストーリー。
のっけからびっくりですよね。なぜ、わざわざ居心地のいいムーミン谷を去って冒険に出るのでしょうか……?読み進めると、ここにもヤンソンさん流の、人生に対する哲学がこめられている様な気がしました。
ムーミン一家は満潮と干潮があることを知りません。なぜ水位が変わるのか、毎日記録を取り解明しようとするムーミンパパ。
みんなが楽しく快適に過ごせるように、たきぎを作ったり、壁に絵を描き始めるムーミンママ。
このファミリーを通して、ずっと同じ日常を守り続けることのむずかしさ、チャレンジすることの大切さを教えてもらった気がします。
ムーミン一家は家族がいるから、子供がいるからと守りに入らず、「同じ日常」と「チャレンジ精神」のどちらも大切にしている姿がなんだかいいな。としみじみ感じてしまいました。
夫婦の、お互いを思いやる気持ちにほっこりすること間違いなしです。
『ムーミン谷の十一月』あらすじ
まっ白な雪にとざされて、長い冬眠に入る前のムーミン谷の十一月……人恋しくてムーミン家に集まってきたフィリフヨンカ、ホムサ、ヘムレン、スナフキンたち。ところが、心をなごませてくれるはずのムーミン一家は旅に出ていて……。ヤンソンが読者に贈るファンタジックで魅力的なムーミン物語の最終巻。
『ムーミン谷の十一月』ヤンソン著 講談社文庫出版 (2011/9/15)より引用
未だかつて、こんなにムーミン一家が出てこない回はあったでしょうか。
前回灯台に住み着いたムーミン一家は、まだ家を開けたままです。冬眠に入る前にムーミン谷のみんなが一家に会いにきたけれど、家はしんと静まりかえっていて、帰ってくる気配もありません。もうムーミン一家は帰ってこないのでしょうか……?
いなくなって初めて、みんなはムーミン一家のことがどれだけ大好きだったか気がつきます。
はじめは集まってきた者同士で揉め事が起きたりしますが、最終的にムーミン一家の家で暮らしたり、みんなで食事をするまでになります。そこにいなくてもみんなの絆をつなぐ役目ができるって、すごいことですよね、ムーミン一家の人徳を感じました。
クライマックスは最終巻にふさわしい、感動的なラストです。
『小さなトロールと大きな洪水』あらすじ
パパはいないけど、もう待っていられない。冬がくる前に家を建てようと、ムーミントロールとママはおそろしい森や沼を抜け、荒れ狂う海をわたって、お日さまの光あふれるあたたかい場所をめざします。第二次世界大戦の終戦直後に出版され、世界中で復刊が待ち望まれていた、ムーミン童話シリーズの記念すべき第一作。
『小さなトロールと大きな洪水』ヤンソン著 講談社文庫出版 (2011/9/15)より引用
幻の1巻め。ムーミン一家が、おなじみのムーミン谷にやってくるまでのショートストーリー。
ムーミンパパがいない状況でママと2人、住む場所を探す旅に出ます。終戦直後の作品ということで、『ムーミン谷の彗星』同様、未来に対する不安や恐怖感が物語全体に漂っていますが、まだ幼いムーミンの勇気と行動力にパワーをもらえる、そんな作品です。
ムーミンの原点とも言えるまだ確立されていないイラストと、ヤンソンさんのまえがき付きという、ファンにとってはたまらない作品となっています。
『ムーミン』シリーズ 感想・レビュー
全てのストーリーに共通して描かれているのは「個人の尊重」と「ツラい時のやり過ごし方」ではないでしょうか。
児童文学が好きな私が、他作品とムーミンの大きな違いを1つあげるとすれば、人の暗い部分や弱い部分を肯定的に切り取っているところ。
1人だけ悪役が出てくるのではなく、悲しみや寂しさ、ずるさを持て余したキャラクターが複数出てきます。そしてそんなキャラクターたちを遠ざけるのではなく、この人はこういう人だから。と、ムーミン一家はありのままに受け入れるのです。
それも、無理に受け入れようとするのではなく、いい距離感を保ったまま付き合おうとするのです。これこそが、大人にも読んでもらいたいポイントです。
3つのポイントに整理して、本の感想をお伝えします。
POINT1. 物語に反映される国民性に注目
作者のヤンソンさんの出身地・フィンランドでは個人の意思を尊重する風潮があるそうで、登場人物たちの言動にもその国民性が反映されているのを感じました。
「普通はこうするべきだ」というような発言は一切なく、お互いの考えをそのまま認め合う関係性がとても素敵でした。
私はついつい「自分がどうしたいか」よりも「1番安全そうな選択」をしてしまいがちなので、この価値観はぜひ取り入れたいものです。
POINT2. ハッとさせられる名言集
ムーミンシリーズを哲学書のようだと感じる理由は、キャラクターたちの核心をついた発言にあります。
ご紹介したい素敵な言葉がたくさんあるのですが、特に心に残っているスナフキンの名言を2つご紹介します。
なんでも自分のものにして、もってかえろうとすると、むずかしいものなんだよ。ぼくは、見るだけにしてるんだ。そして、立ち去るときには、それを頭の中へしまっておくのさ。ぼくはそれで、かばんをもち歩くよりも、ずっとたのしいね。
『ムーミン谷の彗星』 ヤンソン著 講談社文庫出版 (2011/4/15)より引用
たいせつなのは、じぶんのしたいことを、じぶんで知ってるってことだよ
『ムーミン谷の夏まつり』ヤンソン著講談社文庫出版 (2011/5/13)より引用
なんてかっこいいのでしょう……迷ってしまった時、悩んでいると時に何度でも読み返して指針にしたいものです。
POINT3. ヤンソンさんを取り巻く環境の変化にも注目
ストーリーを読み進めると、フィンランドの世相とヤンソンさんの生活環境が物語に大きく反映されているのを感じます。
作品の初期は戦時中で、若いヤンソンさんの未来に対する不安や焦燥感が前面に出ているのに対し、後半になるにつれ生活全体を楽しむような心の余裕が見て取れます。
私がいいなと思ったのは、そんな初期の頃に登場した悲しみや不安を抱えたキャラクターたちを、後半でもしっかり登場させているところです。
世の中が明るくなっても、自分の気持ちが安定しても、ネガティブな感情を否定せずにそのまま物語に反映させることは、本当に気持ちが強い人にしか出来ないことだと思いました。
弱くてもいい、悲しくてもいい。と、そっと気持ちに寄り添ってくれるような安心感があります。
『ムーミン』シリーズを読んだ感想・まとめ
長い人生では、さまざまなトラブルが起こるもの。
どうにもならないことは、あえて真正面から向き合わずに「やれやれ、まいったな……」なんて肩をすくめてやり過ごしてしまっても良いんじゃないでしょうか。
シリーズを通して、ムーミン一家からそんなことを教えてもらった気がします。煮詰まってしまったときは何度でもまたこのストーリーを読み返したいと思いました。
誰が正しいか、ではなくみんな別々の考え方のままでいい。という価値観はぜひ取り入れたいものですね。