当記事は三浦しをん著『政と源』の書評です。
今回ご紹介するのは、人と人との絆について考えさせられる人情譚。
主人公は幼なじみのおじいさん2人。
性格も生き様も正反対で、顔を合わすとケンカばかり。それなのに、どちらかがピンチのときには必ず駆けつける、そんな強い絆で結ばれています。
読み終わる頃には、2人の絆の深さに心がほっこりとあたたかくなるでしょう。
あなたにとっての、良き一冊となりますように。
『政と源』とは?
『政と源』は、2013年に集英社より発行された三浦しをんのヒューマン小説。
御年73歳になる幼なじみの「政」と「源」。戦後の激動の時代を生き抜いてきた2人の、正反対な老後と日常を赤裸々に綴った心温まるストーリー。
『政と源』あらすじ
東京都墨田区Y町。
つまみ簪職人・源二郎の弟子である徹平(元ヤン)の様子がおかしい。原因は昔の不良仲間が足抜けすることを理由に強請られたためらしい。それを知った源二郎は、幼なじみの国政とともにひと肌脱ぐことにするが——。
弟子の徹平と賑やかに暮らす源。妻子と別居しひとり寂しく暮らす国政。ソリが合わないはずなのに、なぜか良いコンビ。
そんなふたりが巻き起こす、ハチャメチャで痛快だけど、どこか心温まる人情譚!Amazonより引用
幼なじみの「政」と「源」。
真面目に生きてきたのに家族に見放され、孤独な生活をおくる政と、いつも周りに人が集まってくる源は、性格も生き様も正反対なのに、なぜかいつも一緒にいます。
人望のある源をうらやみ、ひがみっぽかった政がだんだんと自分を見つめ直し、態度をあらためていく様子に気づかされることがたくさんありました。
今の自分が好きになれない。そんな時に読むと、気持ちの折り合いの付け方、人との付き合い方を見直すきっかけになるかもしれません。
ぜひ手に取ってみてください。
『政と源』感想・レビュー
主人公は73歳のおじいさんなのですが、誰もが感じたことのある「心の葛藤」の描写がとても細やかで、悩んだり迷ったりする事はいくつになっても変わらないんだな、となんだかホッとしました。
いくつになっても自分を見つめ直し、アップデートしていくことは大切だと教えてもらった気がします。
一方で、しょうもないことでケンカばかりしている2人の、全然噛み合っていない会話シーンにも笑いがとまりませんでした。思わず吹き出してしまうシーンもあるので、外で読むときは要注意(笑)
3つのポイントに整理して、本の感想をお伝えします。
POINT1. 戦後を生きぬいた2人の“生き様”に注目
銀行員として真面目に働いてきたのに、奥さんにも子供にも愛想を尽かされ一人暮らしの「政」。自由奔放に生きているのに愛する人と出会い、仕事にも弟子にも恵まれ孤独とは無縁の「源」。
この2人は幼少期に戦争を経験した世代です。焼け野原の状態から「今の日本」をつくったこの世代の2人は、目まぐるしく復興していく社会のなかで必死に自分と家族の生活を守ってきました。
その方法が、政はいい大学を出て銀行で真面目に働くこと。源はかんざし職人として腕を磨くこと。正反対にみえますが、激動の時代を懸命に生きてきた者同士の仲間意識と絆が2人の仲をつなげているのではないかな、と思いました。
私はこの世代とは全然ちがう時代を生きていますが、過ごしてきた時代が何十年か変わるだけで、こんなにも考え方は違うのだな、と勉強になりました。
POINT2. 政は妻をよび戻せるのか?
政は家を出て行ったきり戻らない妻を、あの手この手で呼び戻そうとします。70を過ぎたおじいさんがこれまでの言動を反省し、あらためようと奮闘する姿からは、学ぶべきものがたくさんありました。
相手の気持ちを尊重する、向き合う、自分の気持ちを伝える。そんな日々のコミュニケーションの大切さとむずかしさを、あらためて教えてくれた作品でした。
果たして妻は帰ってきてくれるのか?物語を通して少しずつ変化していく政の様子にも注目です。
POINT3. 噛み合わない2人の会話に笑いがとまらない!
ちょっとした事件が起こるたびに2人は問題解決に奔走しますが、あまりにもかけ離れた2人のふるまいに笑いがとまりませんでした。
穏便に済まそうとする政に対して、突拍子もないアイディアを持ちだす源。私はどちらかというと「政タイプ」なので、源のアイディアには毎回度肝を抜かれました。
自分と違うタイプの友達との付き合いって、正直疲れる時もあるのですが、なぜか憎めないし一緒にいるとなんだかんだで楽しいんですよね。政と源のように、お互いに刺激を与えあえる関係性っていいな、としみじみ感じました。
会話のやりとりに感じられる、それぞれの人柄にも注目です。
『政と源』著者について
『政と源』の著者である三浦しをんさんは、1976年東京生まれの小説家です。
2000年『格闘する者に◯』でデビュー。06年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、12年『舟を編む』で本屋大賞を受賞。
人物描写に定評があり、ヒューマン系の小説を多数執筆されています。映画化された作品も多く、エンターテイメント性のある作品から、恋愛、お仕事小説まで幅広いジャンルの作品を生み出されているのも特徴です。
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『政と源』を読んだ感想・まとめ
ケンカやいがみ合いをしながらも、なんだかんだでお互いを大切に思っている2人。コミュニケーションのとり方は人それぞれですが、そこに愛情、思いやりがあれば相手に伝わるものなのかもしれません。
あなたも、本気で幸せを願う相手、これからもずっと一緒にいたい相手を思い浮かべながら読んでみてはいかがでしょうか。