当記事はルーシー・M・モンゴメリ著『赤毛のアン』シリーズの書評です。
タイトルはおそらく聞いたことがありますよね。いわずと知れた名作ですが、シリーズ全てを読んだことがある。という方は意外と少ないのではないでしょうか?
そもそも、日本では児童向け文学として位置づけられていますが、シリーズが進むにつれ1巻では11歳の少女だったアンが時を経て、10巻では50代になっています。
1人の女性が成長し、結婚して家族を形成していく過程からは学びや気づきがたくさんあり、もはや大人にとっても立派なバイブルになり得ると思い、今回大人向けに書評を書こうと決めました。
主人公・アンのチャーミングな人柄に夢中になること間違いなし。
あなたにとっての、良き一冊となりますように。
『赤毛のアン』シリーズの順番とあらすじ
舞台となったカナダの離島・プリンスエドワード島は実在する島で、作者のモンゴメリさんも実際に暮らしていた場所です。
この島、なんと「世界一美しい島」という異名を持っているそうです。のどかな景色が広がり、四季の移ろいとともに雄大な自然を堪能できるだなんて、羨ましいですね。作中にも、美しい風景描写がたくさん出てきて爽快な気持ちにさせてくれます。
孤児院から引き取られ、この美しい島で暮らすことになったアン。おしゃべりで、おてんば。負けん気が強く、でもお人好しなこの少女に周囲の人々ははじめこそ翻弄されます。
しかし、養父母の手厚い教育と親友との出会いにより、素直で聡明な少女へと成長していきます。
シリーズは全11巻。10巻までが1921年までに村岡花子さんの翻訳で出版されており、人気に伴い2009年に出版された『アンの想い出の日々』のみ、お孫さんの村岡美枝さんが翻訳を担当されたそうです。
私が読んだのは10巻の『アンの娘リラ』までですが、発行順には11巻まで入れておきますね。
- 赤毛のアン
- アンの青春
- アンの愛情
- アンの友達
- アンの幸福
- アンの夢の家
- 炉辺荘のアン
- アンをめぐる人々
- 虹の谷のアン
- アンの娘リラ
- アンの想い出の日々
今回は、私が読了済みの1〜10までのあらすじを説明していきます。
『赤毛のアン』あらすじ
ちょっとした手違いから、グリン・ゲイブルスの老兄妹に引き取られたやせっぽちの孤児アン。はじめは迷惑がった二人も、明るいアンを愛するようになり、アンは夢のように美しく移り変るカナダの自然の中で、少女から乙女へと成長してゆく……。
愛情に飢えた、愛すべき人参あたまのアンが巻き起す、愉快で滑稽な事件の中に、人生のきびしさと暖かい人情が織りこまれた少女文学の名作。『赤毛のアン』モンゴメリ著 新潮文庫出版 (2008/2/26)より引用
老齢のクスバート兄妹に、孤児院から引き取られることになったアン。しかし、これまであまりちゃんとした教育を受けてこなかったアンの「おてんばな振る舞い」に老兄弟は手を焼きます。
孤児というと、大人しそうなイメージを抱くと思うのですが、とんでもない。この子はまあ、よくしゃべります。老兄弟の兄・マシューとの出会いのシーンでは、出会い頭に9行分のセリフを一気にしゃべりまくり、マシューをびっくりさせます。
そして、とてもはっきりした性格で物怖じしません。転校先の学校では、クラスメイトのギルバートから髪の毛の色を「にんじん」とからかわれ、カッとなって頭に石盤を振り下ろしてしまいます……すごいですよね(汗)
本作では、11歳から16歳までの5年間が描かれているのですが、はじめはストレートな物言いにトラブル続きだったアンが、歳とともに大人しくなるのではなく相手への伝え方を学び、自分の欠点を長所に変えていく姿が見事でした。
欠点は直さないといけない。と思っていた私には目からウロコで、活かし方を覚えれば良いんだな。と、肩の力がぬけたような楽な気持ちになったのでした。
相手への配慮を身につけ、変わらぬ度胸も兼ね備えたアンは、次第に周りから一目置かれるようになり、素敵な少女へと成長していきます。
「にんじん事件」以来、疎遠だったギルバートとのラストシーンにも注目です。
『アンの青春』あらすじ
16歳になったアンは、小学校の新任教師として美しいアヴォンリーの秋を迎えた。マリラが引き取ったふたごの孤児の世話、ダイアナやギルバートらと作った「村落改善会」の運営、と忙しいなかにも「山彦荘」のミス・ラベンダーとの出会いや、崇拝する作家モーガン夫人の来訪など楽しい出来事が続く。少女から一人の女性へと成長していく多感な時期を描く、アン・ブックス第二作。
『アンの青春』モンゴメリ著 新潮文庫出版 (2008/2/26)より引用
高校を卒業し、教師として働くことになったアン。働きながら親友のダイアナ・ギルバートと街おこしのような活動もはじめて、公私ともに充実した日々を送ります。
1巻でも子どもから少女へと見事な成長を見せてくれたアンですが、今作では教える立場となり悩みながらも実直に向き合う姿勢に、生徒からも保護者からも慕われるようになっていきます。
学生時代、実は成績優秀だったアン。1巻で高校生の頃、大学受験に合格しているのですが、家庭の経済状況などを考えて就職を選び教師になったのでした。そのことに罪悪感を感じていた養母・マリラが大学行きを勧めます。
教師という安定した職業に就き、周りからも評価されはじめた矢先にもう1度学ぶ側に戻る。という決断は読んでいて驚きでしたし、アン自身の葛藤するシーンにもあるように簡単なことではないはず。
それでも挑戦して見事、名門大学に合格するシーンからはやりたいことにチャレンジするのに立場や年齢は関係ないんだと勇気をもらえました。
そしてなんと、同じ大学にギルバートも進むことになります!2人の関係はどうなるのでしょうか……?
少女から大人の女性へと成長していく姿にも注目です。
『アンの愛情』あらすじ
レドモンド大学に進学したアンは、キングスポートの<パティの家>で仲良しの3人と共同生活を始めた。勉学に励みながら、訪問日には崇拝者たちを惹きつけ、文学を志す。そしてとうとうボーリンググローブの自分の生家を尋ねあてた。
マーク・トウェインをして、「“不思議の国のアリス”以来の魅力ある人物」と言わしめ、絶賛されたアンは、ついに真実の愛情に目覚める。『アンの愛情』モンゴメリ著 新潮文庫出版 (2008/2/26)より引用
念願の大学進学を果たしたアンは、仲良しの友達と共同生活をはじめ、キャンパスライフを謳歌します。
新しい友達もたくさんでき、男の子からもアプローチを受けることに!一方で、ギルバートの方もなんだかほかの女の子と恋仲の噂が聞こえてきて、2人の仲はいったいどうなってしまうのでしょうか……?
これまでは、いつも凛としていて物怖じしないアンでしたが今作では18歳〜22歳の、もう子どもではない、だけどまだ大人にもなりきれない「微妙なお年頃」のみずみずしい青春と、悩める日々が描かれています。
成績優秀で友達も多く、はたから見ると順風満帆に見えるアンなのですが、自分の本当の気持ちがわからずに苦悩したり、自分を大切にしてくれる人に素直になれなかったりするシーンは青春そのもので、自分にもこんな時期があったなと共感できることばかりでした。
あの頃悩んでいたことって今思えばとても些細なことなんですよね。だけどどんなに些細でも、悩んだ末に自分で決めた。という経験自体が自分の財産であり、とてもかけがえのない時間だったと思い出させてくれる、そんな1冊でした。
『アンの友達』あらすじ
ちょっとした気持の行き違いで長いこと途絶えてしまった人と人との愛情が、またふとしたことから甦る。10年も20年も離れていた婚約者同士が、ついにお互いの存在を再確認する——1908年の刊行以来、アンの物語は広範囲の読者の心を捉えてきたが、この第4巻ではアンから少し離れて、アンの周囲の素朴な人たちが愛ゆえに引き起す、さまざまな事件をいくつか紹介する。
『アンの友達』モンゴメリ著 新潮文庫出版 (2008/2/26)より引用
シリーズ4作めの主人公はアンではなく、友人やアンを取り巻く人たちにスポットをあてた短編集となっています。
長くくすぶっていた想いがひょんな形で叶う者あり、偏屈者同士がふとしたきっかけで仲良くなったりと、アンの故郷・アヴォンリーに暮らす人々の暮らしを描いた12話のストーリーが収録されています。
アンは時折出てくる程度ですが、いないところでも人々の口の端に上ったりと、人柄を感じさせてくれます。
モンゴメリさんの描く女性たちは、アンを筆頭に気風のいい、意志の強い女性が多いような気がするのですが、その背景には舞台となっているカナダのお国柄が関係しているようです。
カナダでは、性別関係なくお互いの気持ちをハッキリと伝え合うことを大切にする風潮があるそう。自分の気持ちもしっかり伝える一方で、相手の意見も聞きたがる。と言うのがベーシックだそうで、日本とはだいぶ違いますよね。
意見をぶつけ合うのではなく、お互いの意見を交換しあえる関係性って素敵だなとしみじみ感じるストーリーが印象的でした。
『アンの幸福』あらすじ
サマーサイド高校校長として赴任したアンを迎えたのは、敵意に満ちた町の有力者一族、人間嫌いの副校長、意地悪な生徒たちだった。持ち前のユーモアと忍耐で彼らの信頼と愛情をかち得たアンが、忠実なレベッカ・デューや猫のダスティ・ミラーとともに、2人の未亡人たちの家<柳風荘>で過した3年間を、レドモンド医科大で学ぶ婚約者ギルバートに宛てた愛の手紙で綴る。
『アンの幸福』モンゴメリ著 新潮文庫出版 (2008/3/19)より引用
今回はアンからギルバートへの手紙形式でストーリーが進みます。
大学を卒業したアンは、高校の校長先生として働くことになります。一方、ギルバートは医師になるため医科大へ進学することに。2人は遠距離になってしまうのですが、文通によって絆を深めていきます。
作中ほとんどが手紙の内容を抜粋しているのですが、一方的な様子にならず読者を飽きさせないのは、さすがモンゴメリさん。
アンの身のまわりに起こるさまざまな出来事を、おもしろおかしくユーモラスに綴っていて、これまでのストーリよりもアンの心のうちがたくさん描かれています。
読者はギルバート目線で読み進めることになるのですが、こんな手紙が頻繁に届いたら離れていてもアンに愛着が湧きますし、まるで週刊の連載誌を読んでいるような、続きが気になる楽しさがありました。今の時代とはちがって手紙というのもなんだかレトロでいいですよね。
ギルバートとの関係は良好ですが、校長としての仕事がなかなかうまくいかずに悩むシーンがたくさん出てきます。それでも悲観するのではなく、自分を信じて辛抱強く取り組むことで、だんだんと周囲の人たちの態度に変化があらわれます。
強い意志を持って取り組めば、その気持ちは周りの人にも伝わるものなのだな。と勇気がもらえました。
『アンの夢の家』あらすじ
アンはついにギルバートと結ばれた。グリン・ゲイブルス初の花嫁は、海辺の小さな「夢の家」で新家庭を持った。男嫌いだが親切なミス・コーネリア、目をみはるほど美しいが、どこか寂しげなレスリー、天賦の話術師ジム船長などの隣人たちに囲まれて、甘い新婚生活を送る幸せな二人に、やがてさらにすばらしい授かりものが……。すべての人に熱愛されるアン・シリーズ第六巻。
『アンの夢の家』モンゴメリ著 新潮文庫出版 (2008/3/19)より引用
医師となったギルバートと晴れて結婚することになったアン。
故郷・プリンスエドワード島に帰ってきて、海辺に新居をかまえることに。ここでも個性あふれる人々に囲まれて、愛する人との幸せな新婚生活がはじまります。
結婚式のシーンでは、あんなにおてんばだった11歳の少女がこんなにも立派な大人の女性に……と母親のような気持ちで、思わず目が潤んでしまうこと間違いなしです。
しかし、今作は良いことばかりではありません。これまでの無邪気で楽しかった少女時代・悩みながらも自分の意志で運命を切り切り拓いてきた教師時代とは異なり、生きていれば必ず経験する人との別れや、悲しい出来事も起こります。
その出来事を1人ではなく、夫・ギルバートと2人で乗り越え絆を深めていく姿に、アンはもう身寄りのない孤児じゃないんだ、つらい時そばにいてくれるパートナーを見つけたんだなと、胸が熱くなりました。
『炉辺荘のアン』あらすじ
思い出多い「夢の家」に別れを告げて、アンは三色すみれでいっぱいの「炉辺荘」に移ってきた。いまや働きざかりの主婦となったアンは、忙しい夫ギルバート医師を助け、六人の子供たちの世話をし、次々に訪れる古い友人たちを歓待し、お手伝いのスーザン、猫のシュリンプとともに毎日息つく暇もない。しかし、必要とされる喜び、愛し愛される喜びは、なんとすばらしいものだろう。
『炉辺荘のアン』モンゴメリ著 新潮文庫出版 (2008/3/19)より引用
かわいい子どもたちに恵まれ、すっかり肝っ玉かあさんとなったアン。家事と育児に明け暮れ、大忙しの毎日を描きます。
今回はアンだけではなく、子どもたちが主人公となる話も1人1話ずつ収録されており、悩んだり傷ついたりしながら成長していく姿をアンと共に見守ります。
どの子も、子どもなりにそれぞれの考えや世界観を持っていて、小さいながらも自分なりの矜持をもって生きている姿がチャーミングでとっても素敵。
私が子どもの頃はこんなにしっかりと自分の気持ちを表現することが出来なかったので、アンの子供たちの聡明さには感心してしまいました。
最後の、結婚記念日のストーリーがとても素敵で、目まぐるしい日々の中でお互いを思いやること、その気持ちを伝え合うことの大切さを教えられたような気がします。
大切な人こそ、いつもそばにいてくれることを当たり前と思わず、思いやりを持って過ごしたいものですね。
『アンをめぐる人々』あらすじ
シンシア叔母さんお気にいりのペルシャ猫は、いったいどこへ消えたのか?
どうしても父親を結婚式に招待したかったレイチェルの作戦は?
崇拝者を持ったことがないとは言えなかったばかりに、シャーロットが立ちいたった珍事態––平和に見えるアヴォンリーでも、人々は何かしら事件をかかえている。深い人間愛と豊かなユーモア、確かな洞察力で描かれた、アンをめぐる人々の生活。『アンをめぐる人々』モンゴメリ著 新潮文庫出版 (2008/3/19)より引用
今回はタイトル通り、アンの周囲の人びとのストーリーをまとめた短編集です。
アンの養父・マシューが出てくる話もあり、ここまで読み進めた読者としては懐かしさ・嬉しさでいっぱいになるはずです。
『アンの友達』同様、アンはほとんど出てきませんがその分、周囲の人たちの人間模様がしっかり描かれていて、感動するストーリーがたくさん収録されています。
本筋のストーリーと直接繋がっているわけではないので、全て読破してからスピンオフ的な楽しみ方として最後に読むのもアリだと思います。
老齢の方が主人公になっているストーリーもあり、何歳になっても人は自分の気持ち次第で自分の人生を人生を変える事ができる。という勇気をあたえてくれる内容となっています。
『虹の谷のアン』あらすじ
ウォルターが「虹の谷」と名づけた楓林の向こうの小さな谷には、いつもやさしい風が吹き、ブライス家の子供たちの夕方の遊び場所になっていた。母親を失くし、父も夢想家で、かまってくれる人のいない牧師館の子供たちも、しばしばここを訪れた。古い納屋の乾草の上から哀れな姿で発見された孤児メアリーも、この仲間に加わった。アンの子供たちの毎日を描く、アン・ブックス第九巻。
『虹の谷のアン』モンゴメリ著 新潮文庫出版 (2008/4/24)より引用
美しい自然に囲まれてすくすくと育つ子どもたち。近所に引っ越してきた牧師館の子どもたちも加わり、次々と騒動が巻き起こります。
登場人物が増え、子どもの数だけ個性があり、悩みがあり、トラブルも起きます。苦い経験をするシーンでは守ってあげたい。変わってあげたい!と思ってしまいますが、みんなこうやって大人になっていくのだな……と我が子を見守るような気持ちで読み進めました。
愛情に恵まれない子、親に恵まれない子も出てきますが、必ずしも親が責められるのではなく、大人だって完璧じゃない。子どもと一緒に成長していくものだ。という描写が多く救われる思いでした。
モンゴメリさんの描く人物たちは、ひねくれている人、クセの強い人も出てくるけれど、じつは素直で優しくて、なんだかんだ言っても憎めない人物ばかり。
そんな人たちとうまく折り合いをつけながら暮らしていく姿は、実際の私たちの世界と少し似ているかもしれませんね。
子どもたちのまっすぐな気持ちに、大人が心を動かされるラストシーンは感動ものです。
『アンの娘リラ』あらすじ
みごとに成長した六人の子供たちに囲まれて、アンは幸せな日を送っていたが、第一次大戦の影響は静かな炉辺荘にも及んできた。女たちは、出征してゆく息子や恋人を見送ったあと、寂しさをこらえて、精一杯元気に振舞った。養母マリラの名をもらったアンの末娘リラも、偶然引き取った戦争孤児の世話と、赤十字少女団の運営とで忙しい。リラの日記で綴るアン・ブックス最終巻。
『アンの娘リラ』モンゴメリ著 新潮文庫出版 (2008/4/24)より引用
今回はタイトル通り、14歳になったアンの末娘・リラが主人公。
上の兄弟たちはみな立派に就職したり大学に通ったりしているなかで、特にやりたいこともなく1人暇を持てあましているリラ。反抗期もあって「むずかしいお年頃」の彼女が戦争体験を経て、大人の女性へと成長していく姿が描かれています。
これまでの穏やかで明るい作品とは異なり、今作では第一次世界大戦が勃発。
アンの息子たちも出征することになり、作品全体に不穏な空気が立ち込めますが、ひょんなことから孤児の赤ちゃんを育てることになったリラ。予想以上の育児の大変さに戸惑いながらも懸命に赤ちゃんを育てることで「反抗期」どころではなくなり、大人としての振る舞いを身につけていきます。
豊かだったアン一家の生活が戦争によって逼迫していく様子がリアルに描かれていて、胸が苦しくなるようなシーンもたくさんありますが、これが現実だったんだ。と目を背けず読破することで見えてきたものがありました。
それは、「反抗」や「自己主張」ができるのは余裕があるからだということ。
生活や命が危ぶまれている状況下ではわがままなんて言っている場合ではないんだなと、あらためて平和な日常のありがたみを実感しました。
苦しい雰囲気が続きますが、それでも最後の感動の再会のシーンは必見です。
『赤毛のアン』シリーズ 感想・レビュー
シリーズを通して印象的だったのは、作者のモンゴメリさんがあえてアンにコンプレックスや悲しみを背負わせているところでした。
たとえば、両親を知らずに育った孤児という設定もそうですし、アンの髪の色は1巻のタイトル通り「赤毛」なのですが、これはとても珍しいそうでブロンド(金色)の髪色が大半の中では目立ってしまい、本人もコンプレックスにしている様子がたびたび出てきます。
明るく楽しく暮らしているアンですが、時には大切な人との死別や、読んでいてつらくなるような胸を痛める出来事も起こります。ですが、これは私たちの人生にも起こりえること。
小説だからと「良いこと続き」にせず、悲しみを乗り越える姿を描いてくれるところに親しみが湧くのではないでしょうか。
11歳からはじまり老齢になるまでの一生が描かれているので、読み手側の年齢・ライフステージによっても感じ方が変わりそうですね。
3つのポイントに整理して、本の感想をお伝えします。
POINT1. 美しい風景描写
「世界一美しい島」の異名を誇るプリンスエドワード島。ジャガイモの産地だそうで、のどかな田園風景が想像できますね。
そんな美しい自然に触れ感動したアンは、風景や小道を流れる川に名前をつけます。
りんごの白い花が咲き乱れる小道には「The White Way of Delight」(和訳は「歓喜の白路」)
木々や花・風景の色を映す池には「The Lake of Shining Waters」(和訳は「輝く湖水」)
素敵ですよね。しかも、この名前をつけた場所もちゃんと現存していて観光名所にまでなっています。
アンの博物館(このサイトのあらすじ記事の下の画像がそうです)もあり、物語に出てきた風景が実際に味わえるだなんて、ファンにはたまりませんよね。
POINT2. コンプレックスの描写
赤毛と痩せっぽちの体型がコンプレックスなアン。しかし、アンから見れば理想的なブロンドの髪にぽっちゃり体型の親友・ダイアナは、むしろアンに憧れていて、赤毛もほっそりとした体型も素敵だと言ってくれます。
養父母もアンの魅力を引き出すのが上手で、他の子たち(一般的なブロンド)では似合わないような、モスグリーンのドレスを繕い、赤毛に似合う髪飾りを贈ってくれます。そしてそんな赤毛のアンを素敵だと言ってくれる人もあらわれて、いつしか「自分の個性」として受け入れられるようになっていきます。
誰が決めたのかよくわからないような美の基準に無理やり合わせるのではなく、自分の持っている個性で人を惹きつけるようになっていく姿は本当に素敵で、私も見習いたいなと思いました。
POINT3. アンの成長と変化に注目
1巻の11歳から始まり、学生時代・社会人・結婚・育児……と、シリーズを通して歳を重ね、ライフステージも変化していくアン。
思ったことをそのまま口に出す子供時代から、思慮深さを身につけ大人へと成長していく過程は、生きた時代・国は違えど共通の人の営みなのだなと思いました。
その時々のアンの心理描写や「気づき」も出てくるので、悩んだ時は自分と同じ年代・立場のアンシリーズを読み返してみたり、時には幼いアンから、子ども目線の気持ちを教えてもらう。なんて使い方もいいかもしれません。
アンがあなたに変わって、失敗や成功体験のお手本を見せてくれることでしょう。
『赤毛のアン』シリーズを読んだまとめ
シリーズ10巻を読み終わってみて感じたことは、小説と言うよりかは、人の一生を追うドキュメントを見ているようでした。
調べてみると、作者のモンゴメリさんもアン同様に幼くして両親と別れ、祖父母に育てられた経験を持つそう。
さらに、実際に住んでいたプリンスエドワード島を舞台にしていることもあり、作者自身がアンそのものだったのではないかなと感じました。だからこそ、心理描写にも説得力があり、ドキュメントのようなリアリティを感じたのかもしれません。
時代を経てもなお色褪せない名作には、やはり何度も読み返したくなる理由がありました。あなたも、読み終わる頃にはすっかり彼女に愛着が湧き、ファンになってしまうこと間違いなしです。
ぜひ手にとってみてください。