当記事は森博嗣著『銀河不動産の超越』の書評です。
今回ご紹介する小説は、ひょんなことから不思議な縁がつながっていく、一風変わったストーリー。
事件も起きない、流されるままに生きているように見える主人公。
ですが、個性的な人々に翻弄されながらもほんの少しずつ変化していく彼の様子が気になって、不思議とページを捲る手が止まりませんでした。
少し変わった小説が読みたい気分の時にぴったりです。
あなたにとっての、良き一冊となりますように。
『銀河不動産の超越』とは?
『銀河不動産の超越』は、2008年に文藝春秋に掲載、その後2009年に講談社ノベルスより出版された森博嗣のミステリー小説。
トリックや事件は起きない、人の日常を描いたあたたかいストーリー。
『銀河不動産の超越』あらすじ
気力と体力不足の高橋が、やっと職を得たのは下町の「銀河不動産」。頑張らずに生きる——そんな省エネ青年を訪れる、奇妙な要望をもったお客たち。彼らに物件を紹介するうちに、彼自身が不思議な家の住人となっていた……?
「幸せを築こうとする努力」が奏でる、やさしくあたたかい森ミステリィ組曲。『銀河不動産の超越』森博嗣著 講談社文庫出版 (2011/11/15)より引用
ひょんなことから豪邸に住むことになってしまった不動産勤務の高橋。
省エネモードであまり人と関わらないで生きていきたい高橋ですが、その豪邸に住み始めてからというもの、不思議と彼の周りには個性的な人たちが集まってくるようになって……。
そんな人たちとの関わりの中で、ほんの少しずつ変化していく彼の胸中に注目です。
少し変わった物語のようで、実は人の一生をリアルに描いたような作品にハッとさせられること間違いなし。
少し変わった小説が読みたい時におすすめ。
『銀河不動産の超越』感想・レビュー
別の世界に連れていかれたような、不思議な読後感。
森作品には、この表現がぴったりなのではないでしょうか。
著者の森博嗣さんはミステリー小説を多く執筆されているのですが、本書は少し系統が違います。事件も起きませんし、人も死にません。
エネルギーを使うことを恐れ、極力人と関わらないように暮らしていた主人公・高橋。
それなのになぜかどんどん周りに人が集まるようになり、次々と面倒ごとに巻き込まれる様子がおかしくて、彼の行く末が気になってついついページを捲ってしまう……そんなふうにして、あっという間に読了してしまいました。
お仕事小説というには淡々とし過ぎているかもしれませんが、彼の「受け入れ力」はある種の才能であり、もしかしたらあなたも自分を見つめヒントがもらえるかもしれません。
3つのポイントに整理して、本の感想をお伝えします。
POINT1. これってどんなジャンル?
本書をジャンル分けするのは非常にむずかしいです。不動産で働くサラリーマンが主人公のストーリーで、SFでもないし、ミステリーでもない。かといって普通のお仕事小説とも違う。
森作品は少し変わった世界観のものが多いのですが、特徴のひとつとして「生活感が感じられない」というところが大きいのではないでしょうか。
好き嫌いが別れるところかもしれませんが、作中の会話も独特です。
初めは違和感を感じるかもしれませんが、なんとも言えない絶妙な空気感がクセになり、クスリと笑ってしまうようになればあなたはもう森作品のファンと言えるでしょう。
他にもたくさんの作品を執筆されているので、そちらもおすすめです。
POINT2. 主人公の人柄
初めはNOと言えず、周りから勧められるがままに流されていくような主人公が心配になってしまいます。
ですが、そんな彼をよく見ていくといつもちゃんと一生懸命生きている。ということがわかってきます。
そんな彼の人生が自然と良い方向に人生が転がっていく様子を見ていると、一生懸命やっているのであれば、時には流れに身を任せるというのも悪くないのかな、なんて思ってしまいました。
頼りないように見える主人公ですが、意外と学ぶべき彼の「受け入れ力」にも注目です。
POINT3. 幸福とは?
なんとなく流されてばかりいるように見える主人公ですが、最後まで読むと彼の日常が急に輝きはじめます。
脱力系ですが、決して手は抜かず、驕り高ぶることもなく誰にでも平等に接してきた彼に、こんな言葉をかけてくれる人が現れます。
「人はね、きっかけのせいで幸運を掴むのではない。幸運を掴むのは、その人が持って生まれた能力によるものです。言い換えるならば、幸運といったものは、この世にはない。あるとすれば、幸せを築く能力、それを持っていた、幸せを築こうという努力、それをしたというだけのことです。その能力と努力によって、順当に作られていくのが幸運なのですよ」
『銀河不動産の超越』森博嗣著 講談社文庫出版 (2011/11/15)より引用
素敵な言葉ですよね。噛み締めるととても残酷なようでもあり、反対に努力次第で幸運は掴める。という意味のようにも取れます。
ライフステージや立場によっても捉え方が変わってきそうな言葉ですね。決断に迷ってしまった時に読み返したい1冊です。
『銀河不動産の超越』の作者について
『銀河不動産の超越』の著者である森博嗣さんは、大学工学部の元・助教授という変わった経歴の持ち主。
ジャンルではSF・ミステリーが多く、その経歴を活かした作風は「理系ミステリー」とも呼ばれています。
ほかの作品が気になる方は、こちらの記事もチェックしてみてください。
『銀河不動産の超越』感想・まとめ
今回は、脱力系の主人公に学ぶお仕事小説をご紹介しました。
忙しい日々をお過ごしのあなたに、眠る前のほんのひととき、現実から離れて別の世界にトリップすることでリフレッシュのきっかけにしてもらえたなら幸いです。
ぜひ手にとってみてください。