毎日の食事、ちゃんととれていますか?
バタバタしながら詰め込む朝食、休憩時間にささっとかきこむランチ、疲れて適当にすませる晩ごはん……体のことは気になるけれど、忙しくて作る余裕なんてない。
今回は、そんなあなたに「心に栄養をくれる美味しい小説」をご紹介します。
仕事終わりのへとへとになった体でスーパーに行かなくても、キッチンに立たなくてもいいんです。パッとご飯をかきこんで、ベッドにダイブ。いつもスマホを見ているほんのひとときに本を開くだけ。
ほんの少し気持ちに余裕が出て、次のお休みはちゃんと炊いたご飯を食べよう……そんな気持ちにさせてくれる「美味しい小説」をセレクトしました。
あなたにとっての、良き一冊が見つかりますように。
お料理小説おすすめ10選
シェフが作る本格フレンチ、江戸時代の食堂、ホッとするいつもの家庭料理などなど……今回は、さまざまな料理にまつわる小説を集めました。
いろいろな境遇の主人公が登場しますが、どの物語でも美味しそうにごはんを食べているシーンが出てきて、いつもどんな時でも「食」は生活の基盤なのだなぁ。と感じさせてくれます。
美味しいご飯を届けることはできませんが、読み終わる頃にほんの少し、あなたの心が安らいでいたらいいな。そう思いながらセレクトしました。
- タルト・タタンの夢
- みをつくし料理帖
- 東京すみっこごはん
- パンとスープとネコ日和
- ごはんのことばかり100話とちょっと
- スープ屋しずくの謎解き朝ごはん
- 雪と珊瑚と
- 彼女のこんだて帖
- 今日もごちそうさまでした
- あつあつを召し上がれ
タルト・タタンの夢
商店街の小さなフレンチレストラン、ビストロ・パ・マル。シェフ三舟の料理は気取らない、本当にフランス料理が好きな客の心と舌をつかむものばかり。そんな彼が、客たちの巻き込まれた事件や不可解な出来事の謎をあざやかに解く。
そう、本書は料理本にしてミステリー小説。
シリーズ化されていて、この記事を執筆時点では3冊出版されています。
フランスで修行した経験を持つ三舟シェフの作る料理は、家庭ではなかなかお目にかかれないような本格的なものばかり。
それだけでも豊かな気持ちになれるのですが、謎解きのターンでは、普段口ベタなシェフが人の心に響く言葉を授けてくれます。
多くは語らないけれど、相手のために放つひとことに「人間味」のようなものが感じられて、三舟シェフのことが好きになってしまうかも。
謎の多い三舟シェフですが、シリーズを通して少しずつ明らかになる過去にも注目です。
みをつくし料理帖
時は江戸時代。江戸の小料理屋「つる家」で働き始めた澪(みお)。はじめは地元・大阪との味の違いを受け入れてもらえず、出した料理を食べてもらえないことも。それでも日々研鑽を重ね、いつしか「つる家」は評判の店へと成長していきます。
本書は、私が今まで読んだ本の中でBEST3に入るくらい、大好きな作品です。
主人公・澪の境遇は決して恵まれたものではないのですが、彼女、料理のセンスがとにかくすごい。他の店にはないようなメニューを次々と考案するヒットメーカーなのです。
時にはそれが裏目にでて妬まれたり、案を盗まれたりという被害にも遭ってしまうのですが、負けずにコツコツとひたむきな努力で認められていく姿は涙なしには読めません。
シリーズもので本編10巻+スピンオフ1巻、レシピ本1巻の全12巻となっていますが、1話完結型なので、1巻だけ読んでも楽しめます。
巻末にレシピが載っているので、江戸時代の料理にチャレンジしてみるのも面白いかも。
東京すみっこごはん
商店街の脇道に佇む古ぼけた一軒屋。看板には『共同台所すみっこごはん ※素人がつくるので、まずい時もあります。』
来たい人が来たい時にきて、くじであたりを引いた人がその日のごはんを作るというルール。
この謎の集いに、はじめはみんな戸惑います。ですが、年齢も職業もさまざまな人たちが集まって、ただただみんなでごはんを食べている時だけは、笑顔になれる。
それぞれ悩みや不安もあるけれど、ここでの交流に心がほぐれ明日からまた頑張ろう。とそれぞれの家路に着く……すみっこごはんは、そんな一風変わった「みんなの食卓」なのです。
章ごとに語り手が変わり「すみっこごはん」のメンバーが順番に主人公を務めるスタイルなのですが、人には明かせないそれぞれ心の傷や葛藤を抱えていて「すみっこごはん」に集まるようになった経緯が語られます。
全5巻のシリーズもので、毎回さまざまな事情をもった老若男女が登場するので、今悩みを抱えている方も背中を押してくれる1冊になるのではないでしょうか。
パンとスープとネコ日和
亡くなった母がやっていた食堂を改装し、サンドイッチとスープのお店をはじめたアキコ。母の食堂とのあまりの違いに今までの常連さんは寄りつかなくなり、ご近所さんからも小言を言われてしまう始末……。
古い価値観、良かれと思って、「普通」はこう……主人公・アキコの周りには「あなたのためを思って」さまざまなことを言ってくる人がいます。そんな意見に時には傷つき、悩みながらも自分なりのお店を作り上げていく姿は、共感を覚える人も多いのではないでしょうか。
いろいろな考えの人がいるけれど、自分はなにを大切にするべきなのか。そんなことを考えさせてくれる1冊。
「できるだけいい食材を使って、ひとつひとつ丁寧に作って出す。」というアキコのこだわりがつまった店内は、ゆったりとした時間が流れていて居心地が良さそう。読者の私たちまで店内にいるような、ほっこりとした気持ちになれます。
この記事を執筆時点では5巻まで刊行されているシリーズもので、映画化もされているのでアキコのお店が映像で見られるのは嬉しいところ。
立ちどまって、一息つきたい時におすすめです。
ごはんのことばかり100話とちょっと
作家の吉本ばななさんのエッセイ。
タイトルの通り、ごはんにまつわるお話が100話とちょっと、収録されています。
ご自身で作られる料理のこと、外食の話、海外旅行での思い出などなど、さまざまなエピソードが収録されていて読み応えのある1冊。
吉本さんの考え方がとても素敵で、家庭で作るご飯は力を抜いて、むりをせずに食べたいものを食べるのがいい。食事は楽しむもの。というスタンスに心が救われる思いでした。まともな食事が取れていない時でも、罪悪感なく読めるので安心です(笑)
肩の力を抜いてすきま時間に読みたい、そんな1冊。
スープ屋しずくの謎解き朝ごはん
物語の舞台は早朝営業のスープ屋さん。訪れるお客さんは、今日も皆それぞれの悩みを抱えています。そんなお客さんたちとの何気ない会話の中から「ことの真相」を見抜いてしまう店主の麻野さん。
人々の心と身体の支えになっている麻野さんですが、そんな彼にも実はつらい過去があって……。心温まる連作ミステリー。
この記事を執筆時点では、6巻まで刊行されているシリーズ作品。ですが1話50ページ足らずの短編構成になっているので、寝る前に少しずつ読み進めるのもオススメです。
「疲れている人のために」という麻野さんのコンセプト通り、作中に登場するスープは栄養満点で美味しそう。家の近所にこんなお店があったらなぁと羨ましくなってしまいました。
読んでいるだけで心に栄養が満ちていくような、そんな1冊です。
雪と珊瑚と
主人公の珊瑚(さんご)は21歳のシングルマザー。
生活のため、子どもを預けてパン屋さんで働きますが、このままアルバイトだけでやっていけるのか、未来への漠然とした不安を抱えています。
パン屋で出会った、食物アレルギーの少年との出会いをきっかけに「食」を通して自分のやりたいことを模索していく珊瑚。若くして挑戦することの大変さ、シングルマザーの生活の厳しさをリアルに描いた作品。
主人公の置かれている状況は逼迫していて、はじめは張りつめたような緊張感がありますが、子どもを預かってくれることになった「くららさん」がとてもおっとりとしていて、物語に安らぎを与えてくれます。
くららさんは海外で生活した経験もあって「食事になるしょっぱいマフィン」など日本ではめずらしく、それでいて手軽に作れるレシピがたくさん。珊瑚に「食」で身をたてることを勧めた人でもあります。
読み終わる頃には、あなたも「くららさんのレシピ」を試してみたくなるかも。
彼女のこんだて帖
15話のストーリーが、きっかり10ページずつ収録された連作短編集。長く付き合った彼と別れた者あり、離婚寸前の者あり……美味しい料理はいつも、どんな時でも人々の心と体を満たしてくれる。すべての人に送る、栄養満点の連作短編集。
出てくる料理が美味しそうなのはもちろんのこと、たった10ページのストーリーなのに内容が濃くて、それぞれの主人公の背景や「人間味」を感じることができます。
連作なので、この人さっきも出てきた!こんな一面もあったんだ……というつながりや変化も感じられて、長編小説のような読み応えのある1冊。
そしてなんと言っても嬉しいのが、15話分のレシピがすべて写真入りで掲載されているのです!タイトルに「こんだて帖」とついているだけありますね。
ぜひおうちで試したいものです。
今日もごちそうさまでした
作家・角田光代さんのエッセイ。前述した『彼女のこんだて帖』の作者です。
食材ごとに、それにまつわる思い出話を描かれているので、目次から気になる食材をピックアップして読むもよし。
春夏秋冬、季節ごとの項目もあるので、読んでいる季節に合わせてみたり。はたまた今夜のメニューに悩んだら開いてみる。なんて、料理本のような使い方も出来そうです。
角田さんの書き口がおもしろくて、思わずクスリと笑ってしまうエピソードばかり。タイトルのつけ方にも作家さんのセンスを感じて、目次を読むだけでも楽しい気持ちになってきます。
仕事の合間の、気分転換におすすめです。
あつあつを召し上がれ
幼い頃に、今は亡き母から伝授されたおいしいおみそ汁の作り方、何年か前に家族旅行で食べた天然水でつくったかき氷……。身も心も温めてくれる、7つの感動の物語。
食にまつわる短編が7話収録されていて、ストーリーにつながりはないので、どこからでも読めます。それぞれ舞台設定も異なるので、同じ作家さんが描いたとは思えないような新鮮さがありました。
出てくる食べ物が美味しそうなのはもちろんのこと、ストーリーにも味があって短編ながらも小説として読み応えがあるのもポイント。
お料理小説おすすめ10選 まとめ
今回は「心に栄養をくれる美味しい小説」をご紹介しました。
疲れたとき、手の込んだごはんを作る余裕はなくても、本を開くだけでちょっぴり豊かな気持ちになれる。そんな読書体験のお手伝いができたらいいなと思います。
今のあなたにぴったりな小説が見つかりますように。