当記事は角田光代著『彼女のこんだて帖』の書評です。
今回ご紹介する小説は「食」にまつわるエピソードを集めた連作短編集。
短編なので気軽に読めますが、ほろりときてしまうような切ないエピソードや、感動のストーリーが多数収録されているので、1人きりで物語に浸るのがおすすめ。
あなたにとっての、良き一冊となりますように。
『彼女のこんだて帖』とは?
『彼女のこんだて帖』は、2006年ベターホームより出版された角田光代の連作短編集。
料理にまつわるストーリー展開で、すべてレシピ付きという料理本さながらの1冊。
『彼女のこんだて帖』あらすじ
長く付き合った男と別れた。だから私は作る。私だけのために、肉汁たっぷりのラムステーキを!
仕事で多忙の母親特製かぼちゃの宝蒸し、特効薬になった驚きのピザ、離婚回避のミートボールシチュウ——舌にも胃袋にも美味しい料理は、幸せを生み、人をつなぐ。レシピつき連作短編小説集。
『彼女のこんだて帖』角田光代著 講談社文庫出版 (2011/9/15)より引用
長く付き合った彼と別れた者あり、お母さんになる者あり、方や離婚寸前の者あり……美味しい料理はいつも、人生のどんなシチュエーションでも心と体を満たしてくれる。
料理にまつわる15のストーリーが、きっかり10ページずつ収録された連作短編集。
すきま時間に少しずつ読むこともできますが、連作でストーリーにつながりがあるので、長編小説のような読みごたえもあります。
気軽に読めるけれど、あたたかいストーリーばかりで思わず、ほろりときてしまいます。
泣ける小説が読みたい、そんな時におすすめです。ぜひ手にとってみてください。
『彼女のこんだて帖』感想・レビュー
連作なので、あるストーリーではほんの端役だった人物が、別のストーリーでは主役になっていたりして、短編ながら1人1人の登場人物に「奥行き」を感じました。
作者の角田光代さんは、心理描写に定評があるのでもちろん技術もあるかと思いますが、そんなふうにさまざまな角度から切り取られた「普通の人たち」の生活は、私たちの人生とリンクする部分も多く、思わずうるっときてしまうようなエピソードも。
そして何より、出てくる料理がどれも美味しそう。角田さんは作るのも食べるのも、きっと大好きな方なんだろうなという、食べ物に対する愛情が感じられて、同じく食べることが大好きな私としては嬉しくなってしまいました。
3つのポイントに整理して、本の感想をお伝えします。
POINT1. グッとくるエピソード
連作短編集ということで15話のストーリーが収録されているのですが、どのエピソードも目頭が熱くなるような、感動するものばかりでした。
ストーリーごとに語り手が変わり、15人の主人公が登場するのですが年代、立場もじつにさまざまで、タイトルは「彼女の〜」となっていますが、男性が主人公のお話も。
なぜこんなに目頭が熱くなるのか。それはきっと、どの主人公も「普通の人」だから。
あなたと近い年代の主人公もいるでしょう。もしかしたら境遇が似ている人も出てくるかもしれません。
そんな「普通の人」が日々を一生懸命生きて、ほんのささやかな楽しみとしてご飯を食べる。悲しいことがあって傷ついても、ご飯を食べて明日への活力にする。
そんな姿が私たちの暮らしとリンクする部分も多く、思わず共感してうるっとしてしまうのかなと思いました。
POINT2. 長編小説のような読みごたえ
時間がなくてもさくっと読めるのが、短編集の最大のメリット。ですが、物語の余韻に浸るには少し短すぎるな……という時もあって。
その点、本書は連作になっているので、さらっと登場した人物が、別のストーリーでは主役になっていたり、前回登場した時とは状況が変わっていたりして、物語の中でそれぞれの人生が動いているのが感じられました。
そんなふうに登場人物をいろんな角度から見られるので、どの人物にもそれぞれの人間性が感じられて、1冊の長編小説を読んだかのような満足感が味わえました。
POINT3. すべてレシピ付き!
読み終わってびっくりしたのが、15話のエピソードに登場した料理が、すべて写真入りでレシピ掲載されているのです!
なるほど。タイトルの「こんだて帖」を裏切らない特典ですね。老若男女、さまざまな人物が登場するので、なかなか家では作らないようなラムステーキから、餃子鍋、あじの一夜干しなどなど、じつにバリエーション豊かな「こんだて帖」となっています。
1番心に残ったエピソードの料理を再現してみる。そんなふうに小説の余韻を楽しむのも良いかもしれません。
『彼女のこんだて帖』の著者について
『彼女のこんだて帖』の著者である角田光代さんは、日本の小説家、児童文学作家、翻訳家。
数々の文学賞を受賞しており、現在は選考委員を務める事も多い。
心の傷や悲しみの描写に定評があり、映画化されている作品も多数。
『彼女のこんだて帖』感想・まとめ
今回は、泣けるお料理小説をご紹介しました。
休日の前夜に1人きり、ひっそりとベッドで読むのにぴったり。
ほろりと感動した後で、明日はあのレシピにチャレンジしてみようかな。なんて気持ちにさせてくれます。
すべての人に送る、栄養満点の連作短編集。
ぜひ、手にとってみてください。