当記事は群ようこ著『かもめ食堂』の書評です。
このお話の主人公・サチエは、周りから評価されなくてもブレずに「自分の心の声」を信じることができる、芯の強い女性です。
フィンランドでたった一人、食堂はうまくいっていなくても穏やかに、日々を丁寧に暮らしているサチエの「心の持ち方」は参考にしたいなと思う事ばかりでした。
忙しくて余裕のない日々の合間に心がふっと楽になる、そんな小説です。
あなたにとっての、良き一冊となりますように。
『かもめ食堂』とは?
『かもめ食堂』は、2006年に幻冬舎より出版されたヒューマン小説。
のちに小林聡美主演で映画化され、第28回ヨコハマ映画祭にて第5位を獲得した。
映画の撮影で使われた現地の食堂は、現在も「Ravintola Kamome(ラヴィントラカモメ)」として実在し、日本人観光客に人気のスポットとなっている。
『かもめ食堂』あらすじ
ヘルシンキの街角にある「かもめ食堂」。日本人女性のサチエが店主をつとめるその食堂の看板メニューは、彼女が心をこめて握る「おにぎり」。けれどもお客といえば、日本おたくの青年トンミひとり。ある日そこへ、訳あり気な日本人女性、ミドリとマサコがやってきて、店を手伝うことになり……。普通だけどおかしな人々が織り成す、幸福な物語。
『かもめ食堂』群ようこ著 幻冬舎文庫出版 (2008/8/10)より引用
この小説は、フィンランドで食堂を営む日本人女性のお話。
小林聡美さん主演で映画化もされているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
はじめは「東洋人の女の子が一人でやっている謎の店」と敬遠され、閑古鳥が鳴いているかもめ食堂。ですが、主人公・サチエの人柄も手伝って、次第にみんな心を開き、食堂にも人が集まるようになっていきます。
おにぎり、シナモンロール、コーヒー……サチエの作る素朴だけど心のこもった料理は、読み手である私たちの心も、いつの間にかほぐしてくれます。
何も考えず、ほっと一息つきたい時にぴったりのヒューマンストーリー。
ぜひ手にとってみてください。
『かもめ食堂』感想・レビュー
生まれ育った日本ではなく、遠く離れた北欧の地・フィンランドで食堂をひらく。
国が違うからこその苦労もするのですが、主人公のサチエに不幸そうな雰囲気は一切なく、自分の信念を貫き、だけど地元に根ざしたお店にしたいと考え、お金儲けではなく「気づいてもらえる人に気づいてもらえればいい。」というスタンスで辛抱強くお客を待ちます。
その甲斐あって、だんだんと彼女の店は繁盛しはじめるのですが、出てくる料理が美味しそうで、近所にこんな素敵なお店があったらなと思わずにはいられませんでした。
ふとしたセリフに感じるサチエの芯の強さ、人柄にも注目です。
3つのポイントに整理して、本の感想をお伝えします。
POINT1. 「食」への想い
「華やかな盛りつけじゃなくていい。素朴でいいから、ちゃんとした食事を食べてもらえるような店を作りたい」
『かもめ食堂』群ようこ著 幻冬舎出版 (2008/8/10)より引用
幼少期から料理が好きで、食物科のある学校に通ったサチエがあらゆる飲食店に通いつめ、勉強した末にたどり着いたのはとてもシンプルな答えでした。
この思いが念頭にあるから、日本からはるか遠いフィンランドで思うようにお客さんが入らなくても、ブレずにいられたのかなと思いました。
こういう、突き詰めた結果気づいたことや、自分自身で導きだした答えってその後の人生の大きな指針になったりしますよね。
POINT2. 交錯する文化 おにぎり×シナモンロール
和食・フレンチ・中華……飲食店にはさまざまなカテゴリーがありますが、メニューにおにぎりとシナモンロールが一緒に並ぶ店を、私は見た事がありません。
かもめ食堂は、なぜこのような妙な組み合わせになったのでしょうか。
当然、フィンランドではおにぎりを食べる習慣はないわけですが、サチエは父との思い出から、おにぎりだけは譲れないこだわりがあります。
しかし、日本人にとっては食べ慣れた定番のソウルフードでも、フィンランドの人たちにとっては「白に黒のコントラストの不思議な食べ物」でしかないようで……。
一方で、地元の人たちが気軽に食べられるものを、という経緯でフィンランドのカフェでは定番メニューのシナモンロールを焼くことに。
どうしても譲れないこだわりと、地元に寄り添った結果だったのですね。
一見妙な組み合わせですが、どちらかを諦めるのではなく「大切にしたいこと」を妥協しなかった結果が生み出した取り合わせに、主人公の「らしさ」を感じました。
POINT3. 主人公の気持ちの強さ
フィンランドにたった一人で食堂をオープンしてしまうくらいですから、主人公・サチエは抜きんでた行動力の持ち主ですが、私が彼女をいいなと思ったポイントは、考え方でした。
「自然に囲まれている人が、みな幸せになるとは限らないんじゃないかな。どこに住んでいても、どこにいてもその人次第なんですよ。その人がどうするかが問題なんです。しゃんとした人は、どんなところでもしゃんとしていて、だめな人はどこに行ってもだめなんですよ。きっとそうなんだと思う」
『かもめ食堂』群ようこ著 幻冬舎出版 (2008/8/10)より引用
ハッとしませんか?ついつい周りに流されてしまったり、環境に甘えてしまう私は、身につまされました。
この強い気持ちがあるからこその行動力なのかもしれません。
『かもめ食堂』の著者について
『かもめ食堂』の著者である群ようこは、日本の小説家・随筆家。
出版社に在籍していた頃に作家デビューし、以来小説とエッセイを数多く執筆している。
自身の体験をセキララに綴ったエッセイが特に人気で、主に女性からの支持を受けている。
『かもめ食堂』感想・まとめ
自分が大切にしたいことは何なのか。主人公・サチエの生き方から、学ぶべき事がたくさんありました。
読むと必ず、シナモンロールとコーヒーが食べたくなるはず。あるいは、おにぎり。どっちも準備して、かもめ食堂のお客さんになったつもりで食べながら読み進めるのも、楽しいかもしれません。
ぜひ手にとってみてください。