当記事は、森博嗣著『ヴォイド・シェイパ』の書評です。
今回は、読み終わった後に考え方・価値観を変えてくれる1冊をご紹介します。
自分とは違う考え方の人と出会って、そういう考え方もあるんだなと目から鱗が落ちた経験は、きっと誰にでもあるかと思います。
そんな体験を家にいながら、読書から得られたら最高ですよね。
あなたにとっての、良き一冊となりますように。
『ヴォイド・シェイパ』とは?
『ヴォイド・シェイパ』は、2011年4月に中央公論新社より出版された森博嗣による時代小説。
「本当の強さ」を追求するために流浪の旅をする侍を描いた作品で、本書を皮切りに5巻までのシリーズものとなっている。
『ヴォイド・シェイパ』あらすじ
人は無だ。なにもかもない。ないものばかりが、自分を取り囲む——ある静かな朝、師から譲り受けた一振りの刀を背に、彼は山を下りた。世間を知らず、過去を持たぬ若き侍・ゼンは、問いかけ、思索し、そして剣を抜く。「強くなりたい」……ただそれだけのために。
『ヴォイド・シェイパ』森博嗣著 中公文庫出版 (2013/4/25)より引用
師匠とたった二人きりで山にこもって暮らしていた、侍のゼン。
その師匠が亡くなって山を降りることになり、はじめてたくさんの人たちと触れ合います。
世間を知らないゼンは、世の中を知るための旅に出ることに。
「本当の強さとは何か」を考えさせられる時代小説。
『ヴォイド・シェイパ』感想・レビュー
時代小説でありながら「強さとは」を追求する様子が哲学書のようでもあり、何度も繰り返し読みたい1冊になりました。
ずっと山奥で暮らしてきたゼンの固定観念に囚われない考え方にいちいちハッとさせられて、案外自分を苦しめているのは自分自身が作り上げた思い込みなのかもしれないなと痛感しました。
思い込みやしがらみを払拭する、いいきっかけになるかもしれません。
3つのポイントに整理して、本の感想をお伝えします。
POINT1. 少し変わった時代小説
主人公のゼンは侍で刀を差しているので、本書はいわゆる時代小説と言えます。
ですが、少し変わっているなと感じたのは時代設定の描写が一切ないこと。
時代小説といえば史実に基づくストーリーや、実在した人物をモデルに描いたものが多いですよね。
戦国時代であることは間違いなさそうですが、生活感が徹底的に削ぎ落とされているので、より世界観に引き込まれる感覚がありました。
食べ物や建物の描写も抽象的なものが多いので「もしかしてアレのことかな?」なんて想像しながら読むのも楽しそうです。
POINT2. 本当の強さとは?
主人公のゼンは「本当の強さとは何か」を問うために旅に出ることに。
旅の道中でさまざまな人と出会い、新たな発見をしながら答えのない問いを自らに問いかけ続けます。
そのなかで、彼なりにたどり着いた答えがすごく胸に刺さったのでここでシェアさせてください。
「負けるたびに強くなれる。だが、負けたらそれでお終いだ」
『ヴォイド・シェイパ』森博嗣著 中公文庫出版 (2013/4/25)より引用
この矛盾に、この道の真理があるように思えた。
(中略)
負けることで強くなれる。勝つことでは学べないのだ。おそらくそれは、学ぶ心の問題かもしれない。
こんなふうに、その時々の自分にとって必要な哲学が詰まっているので、悩んでいる時や不安を感じている時におすすめです。
POINT3. “思い込み”や“決めつけ”について考える
ゼンは人里離れた場所で、いわば隔離されて生きてきたので「固定観念」というものを持ちません。
本書から生活感があまり感じられないのは、このせいかもしれません。
ある時は、髪に花飾りを付けている女性に「自分では見えないのに、何のために飾っているのか?」と聞いて驚かれたり。
またある時は、したくもない“果たし合い”を控えた者に「なぜ断らないのか?」と聞いたり。
まるで子どものようでほっこりすると同時に、いかに私たちが生活のなかで、意味のない思い込みやしがらみに囚われているかを痛感しました。
あなたにとっても、価値観を変えてくれる1冊になるかもしれません。
『ヴォイド・シェイパ』の著者について
『ヴォイド・シェイパ』の著者である森博嗣さんは、大学工学部の元・助教授という変わった経歴の持ち主。
ジャンルではSF・ミステリーが多く、その経歴を活かした作風は「理系ミステリー」とも呼ばれています。
ほかの作品が気になる方は、こちらの記事もチェックしてみてください。
『ヴォイド・シェイパ』感想・まとめ
今回は、読み終わった後に考え方・価値観を変えてくれる1冊をご紹介しました。
まったく違う時代の若き侍から「強さ」について学ぶ。そんな読書体験もいいかもしれません。
悩んでいる時や息詰まった時に、ぜひ手に取ってみてください。