当記事は梨木香歩著『西の魔女が死んだ』の書評です。
今回ご紹介する小説は、決断に迷った時や初心に立ち帰りたい時におすすめの小説です。
おばあちゃんが教えてくれる「魔女の手ほどき」があるので、大切にするべきことはなんなのか見えてくるかもしれません。
あなたにとっての、良き一冊となりますように。
『西の魔女が死んだ』あらすじ
中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変るひと月あまりを、西の魔女のもとで過した。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも……。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。
『西の魔女が死んだ』梨木香歩著 新潮文庫出版 (2001/8/1)より引用
タイトルの印象から、ファンタジーものを連想する方もいるかもしれませんが、違います。
「西の魔女」とは主人公・まいのおばあちゃんのこと。学校に足が向かなくなってしまったまいは、田舎のおばあちゃんのもとで過ごす事に。
中学生という、むずかしいお年頃のまい。おばあちゃんから「魔女の手ほどき」を受け、学校では教えてくれない、生きていく上で大切なことを学びます。
この年代特有の葛藤、心の成長をみずみずしく描いたストーリー。
ぜひ手にとってみてください。
『西の魔女が死んだ』感想・レビュー
おばあちゃんがまいに教えようとしたこと、それはきっと「心を整える」ということではないでしょうか。
中学生の子にそんなことがすぐに出来るようになるとは思えませんが、おばあちゃんはきっと、周りに翻弄されず心を整えて、自分の気持ちを大切にしてほしい。と願ったのではないかと思いました。
大人になった私も出来ていない時があるので、自分を見つめ直すきっかけにもなりましたし、何か決断に迷った時には読み返して、おばあちゃんに背中を押してもらいたいな。と思いました。
3つのポイントに整理して、本の感想をお伝えします。
POINT1. 魔女の手ほどきとは……?
おばあちゃんから「魔女の手ほどき」を受けることになった、主人公・まい。
この小説はファンタジーものではないので、おばあちゃんのいう「魔女」とは、魔法を使って空を飛ぶ……というのとは、すこし違います。
おばあちゃんの話によると「魔女」とは、天気予報がまだなかった時代に明日の天気を予測したり、ケガをした時に治癒を助ける草木の知識があったり……そう、豊富な知識を持っていて、難を逃れる術を持っている人のことを指しているようです。
そういう術を習得することで、自分の人生を生きやすくし、他人の助けにもなれる。そのための「心構え」は、自分の人生にとっても大切にしたいな、と思えることばかりでした。
ですが、気持ち次第ですぐに始められることばかりでしたので、私もまいになったつもりでおばあちゃんのいう「基礎トレーニング」から、はじめたいと思いました。
POINT2. おばあちゃんの裏庭が素敵!
この小説を読んでいて私が強烈に惹かれたのは、おばあちゃんの家の美しい裏庭。
植物がたくさん植えられていて、その木々や草花が織りなす美しい情景が目に浮かんでくるようでした。
サンドイッチを作るとなれば庭からレタスを収穫し、野いちごが実ると摘んでジャムを作り、またある時は、洗ったシーツをラベンダーの茂みの上に広げて「よく眠れるから」と香りをうつす……
オシャレすぎませんか?学校に行けなくなったまいは、この家で過ごすことで元気を取り戻していくのですが、忙しい日々の中で、まいのようにゆっくり過ごすことはできないあなたにも、この情景にふれあうことで「心の栄養」になったらいいなと思います。
POINT3. おばあちゃんのアドバイスが身に沁みる
学校と家という、まだ狭い世界しか知らない主人公・まい。固定観念にとらわれて、自分の気持ちとの折り合いがつかず葛藤します。
そんな時、おばあちゃんは押しつけるでも説教するでもなく、そっと背中を押すようなアドバイスをくれます。数々のアドバイスの中で、私が特に好きだなと思ったものを紹介します。
「その時々で決めたらどうですか。自分が楽に生きられる場所を求めたからといって、後ろめたく思う必要はありませんよ。サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからといって、だれがシロクマを責めますか」
『西の魔女が死んだ』梨木香歩著 新潮文庫出版 (2001/8/1)より引用
心に沁みてきませんか?自分が楽に生きられる場所を求める。すこしコツがいるかもしれません。
でも、誰にも責める権利はありませんよね?あなた自身の人生ですから。
『西の魔女が死んだ』感想・まとめ
自分の決断に自信がもてない、なにを決め手にしていいか迷ってしまう……そんな時は「魔女の手ほどき」を受けて、自分を整えてみませんか?
「おばあちゃん」は小説の中で、いつでもあなたを待っています。心が弱ってしまっている時におすすめの小説です。
ぜひ、手にとってみてください。