当記事は、太宰治著『人間失格』の書評です。
かの有名な太宰治の代表作。読んだことはあるでしょうか?
決して明るい内容ではありませんが、作品を通して主人公の弱さと向き合うことで自分自身の弱さと向き合うきっかけになるかもしれません。
あなたにとっての、良き一冊となりますように。
『人間失格』あらすじ
太宰治の代表作とも言える作品。
3部の手記からなる構成で、主人公の境遇が太宰治本人のそれとリンクしているため、自伝ではないかとも言われています。
人を恐れ、怯えて社会生活に上手く溶け込めず、やがては転落していく主人公の様は共感できる部分もあれば、不快感を覚えることもあるでしょう。
第一次世界大戦後の混沌とした社会の中で、懸命に生きた人々の当時の雰囲気も感じることができます。
『人間失格』感想・レビュー
本書がもしも本当に太宰治の自伝なのだとしたら、ここまで自分を客観視してさらけ出せる能力はすごいとしか言いようがありません。
人と向き合うことを恐れ、NOと言えない性格が災いし、次々と女性と関係を持ち転落していく様子は、一見滑稽にも思えます。
ですが、この転落していく様から学ぶことは多く、自分と他人の境界線の引き方や考え方は誰しも参考になると思いますので、本書を読むべきポイントを3つに整理して、お伝えします。
POINT1. 「私」とは誰なのか?
本書は、ひょんなことから手記を手に入れた「私」のパートと、その手記の主人公である「大庭葉蔵」のパートに分かれています。
この「大庭葉蔵」の境遇が、太宰治自身のそれとあまりにも酷似しているため、この手記の内容は自伝なのではないかと言われています。
ですが「私」自身もどうやら物書きであるらしく、もしもこの「私」が太宰自身と仮定するならば、自身を作品の題材として提供していることにもなります。
この辺りの解釈はたくさん出ているのですが、著者が故人となってしまった今、真相は闇の中。
どの視点で読むのかによっても感じ方が異なりそうな1冊です。
POINT2. 弱さと向き合う
主人公・大庭葉蔵の特徴を2つあげるとすると、人に対する恐怖心と過剰な自意識がキーになってくるかと思います。
この要素をこじらせていくことにより転落していくのですが、その様子から読み取れることが意外に多いのです。
実に、珍らしい事でした。すすめられて、それを拒否したのは、自分のそれまでの生涯に於いて、その時ただ一度、といっても過言ではないくらいなのです。自分の不幸は、拒否の能力の無い者の不幸でした。すすめられて拒否すると、相手の心にも自分の心にも、永遠に修繕し得ない白々しいひび割れが出来るような恐怖におびやかされているのでした。
『人間失格』太宰治著 新潮文庫出版 (1952/10/30)より引用
これは、人に対する恐怖心から社会に溶け込めず転落していく葉蔵が、半ば強制的に精神病院に入院させられるシーン。
人と向き合うことで、ようやく自分の弱さを自覚した葉蔵。
シチュエーションは違えど、私たちにもこの経験はありますよね。
本書を通して、自意識と客観的な視点のバランスの取り方は勉強になるかもしれません。
POINT3. 戦後の混沌とした日本の様子に注目
ストーリーの舞台となっているのは1920年代の日本。第一次世界大戦の終戦直後です。
海外の文化も入ってきて、目まぐるしく変わっていく世間。
主人公の葉蔵をはじめ、この時代にちょうど就職をむかえた世代はこの厳しい情勢を生き延びなければならず、困惑している様子が伝わってきます。
そんな時代背景も手伝って、社会についていけない葉蔵の転落していく様は時代の被害者とでも言いましょうか。
現代小説では味わえない、混沌とした当時の状況にも注目してみてください。
『人間失格』感想・まとめ
今回は、強烈な自意識に飲み込まれてしまった悲しい男の物語をご紹介しました。
決して読後感は良くありませんが、本書に描かれている時代背景や思想は現代小説では味わえない代物です。
普段は現代小説しか読まない方でも、別の時代を生きた著者の作品に触れてみることで、新たな引き出しができるかもしれません。
ぜひ手にとってみてください。