『サクリファイス』書評。ロードレーサーに学ぶ、自分の役割との向き合い方

【コラム】『サクリファイス』ロードレーサーに学ぶ、自分の役割との向き合い方

社会の中では、皆それぞれ役割というものがありますよね。

父、母といった家族の中での役割から、課長、新人といった会社での役割まで、望むと望まざるとにかかわらず、人生の中ではさまざまな割り振りをされるものです。

今回は小説の登場人物であるロードレーサーから、「自分の役割」との向き合い方について学んでいきましょう。

目次

『サクリファイス』について

『サクリファイス』は、2007年に新潮社より出版された近藤史恵によるミステリー小説。

自転車ロードレースチームに所属する主人公の成長と葛藤を描いたスポーツ小説でありながら、レース中の事故を巡る推理小説のような展開もあり、日本ではあまりメジャーではなかったロードレースという競技を題材にした事で話題となった。

後にシリーズ化され、2022年8月現在完結はしておらず、5巻まで出版されている。

『サクリファイス』あらすじ

ぼくに与えられた使命、それは勝利のためにエースに尽くすこと。陸上選手から自転車競技に転じた白石誓は、プロのロードレースチームに所属し、各地を転戦していた。そしてヨーロッパ遠征中、悲劇に遭遇する。アシストとしてのプライド、ライバルたちとの駆け引き。かつての恋人との再会、胸に刻印された死——。青春小説とサスペンスが奇跡的な融合を遂げた!

『サクリファイス』近藤史恵著 新潮文庫出版 (2010/2/1)より引用 

自転車のロードレーサーである主人公・白石誓の葛藤と成長を追うストーリー。

なのですが、この小説、ただの爽やかなスポーツ小説じゃないんです。

レース中に起きた事故の推理要素も絡んできて、推理小説としても楽しめるのが本書の面白いところ。

主人公の白石を通して「自分の役割」について考えるきっかけをくれる1冊です。

『サクリファイス』ロードレーサーたちが教えてくれたこと

本書は、ロードレース(※)を題材としたミステリー小説。

個人競技でありながら、時にはチームの成績を優先するため個人を犠牲にすることもあるという、複雑な競技です。

タイトルのサクリファイス(sacrifice)とは、直訳すると「犠牲」。読了後にこの言葉がじわじわと効いてきます。

自分の思いと、チームから求められることへのズレにどう対応していくのか。
個人の成績とチームの勝利、どちらを優先するのか。
自分はどんな走りがしたいのか。

自分自身にも覚えのある迷いや葛藤の連続で、主人公に共感できる部分がたくさんありました。

今回は、そんなロードレーサーから「与えられた役割と「自身との向き合い方」について学んでいきましょう。

(※)ロードレース……主に舗装された道路を自転車で走り、ゴールの順番や所要時間を争う競技。長いレースでは1日で300km弱にも及ぶ。どのレースでも個々の成績を争うため、基本的には個人競技であるが、上級カテゴリーのレースでは、複数人のメンバーが役割を分担して、チームが定めた目標達成のために走るため、ほとんどの場合、団体競技の様相を呈するのが特徴である。

Wikipediaより引用

白石に学ぶ『縁の下の力持ちタイプ』の立ち回り方

主人公の白石は、スポーツマンのわりには控えめで温厚な性格の持ち主です。

レース中も、チームの成績を優先するために自己犠牲を厭わないタイプなのですが、こういう縁の下の力持ちタイプって、チームに一人は絶対必要なのに評価されにくいうえに、下に見られてしまいがちですよね。

特に、ロードレーサーのように成績や順位がつけられる世界で生きている人はなおさら。

ですが、彼から学ぶべきところは、我慢して犠牲になろうとしているのではなく、その役割を好きでやっているという点。

個人の順位や成績がついてこなくても「人のサポートをしている時の方が喜びを感じる」そんな風に感じたことがある人は、ぜひ白石の思考に着目しながら読んでみてください。

自分が前に出るだけがすべてではない、ということを白石が示してくれるはずです。

石尾に学ぶ『人の想いも背負う』覚悟

主人公の白石が所属するチームのエースである、石尾さん。

彼はとにかく負けず嫌いで、勝負に並々ならぬこだわりを持っています。

成績のためならチームメイトを犠牲にすることもしばしば。そのため、メンバーからは少し恐れられてもいますが、彼の強い想いはストーリーにも、チームにも大きな影響を与えます。

この彼の選択をどう感じるかは見解が分かれそうなところですが、実は人の想いまで背負い込み覚悟をもってレースに臨んでいるという心意気は、学ぶべきものがあると感じました。

結果にこだわりたいタイプの方、なかなか結果が出せずにモヤモヤしている方は、この石尾さんのマインドに注目して読んでみてください。

自分にプレッシャーを与えてそれを跳ね返していく。誰にでも出来る事ではありませんが、心意気は参考になるかもしれません。

伊庭に学ぶ『自分を認めさせる』力

伊庭は、あまり人とつるまない、いわゆる一匹狼的なキャラクターです。

そういうタイプって、一般的には自己中心的なイメージを持たれがちですよね。

ですが、彼は休みの日にも練習をしますし、逆にいうと自分に必要なことしかしないストイックな人物とも言えます。

だからこそ結果が出せているのですが、協調性がないと疎まれるのは日本人の特徴ですよね。

・他者に危害を加えない
・やるべきことをやっている

バランスが難しいところですが、この2つをクリアしているのであれば、自分のやり方を通すのはアリなのではないでしょうか。

いつも人と衝突しがちな方は、伊庭の振る舞いに注目してみてください。

苦手な協調性を養うよりも、結果を出して認めさせるという方法もあるかもしれません。

『サクリファイス』ロードレーサーたちが教えてくれたこと・まとめ

実際のストーリーには、今回ご紹介したロードレーサーたちの他にも、さまざまなタイプのレーサーが登場します。

大事なのは、誰が正しい、間違いと決めつけるのではなく、それぞれの特徴を認め合う、他人の土俵にあがらないという事ではないでしょうか。

周りから求められるままに自分を押し殺すのではなく、自分が心地いいと思える役割(ポジション)が何なのかを探ること。

その役割をコツコツと全うしていれば、いつかそれを評価してくれる人が現れて、自分の持ち味を活かせるステージを用意してもらえる機会が訪れるかもしれません。

もし、その機会が訪れないようであれば、ステージ(環境)を変えてしまうのもひとつの選択でしょう。

今求められている役割が自分にとって「心地いいかどうか」考えるきっかけをくれる一冊です。

ぜひ手にとってみてください。

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この記事を書いた人

これまでに何百冊もの小説を読んできました。その中から特に心に残った一冊を、少しずつ書評としてまとめています。

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